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自立を考える(その8)

なぜ「自立」にこだわるか

自立という言葉の多様性

最近「消費者の自立」というテーマの講演会のポスターを見た。こんな「自立」の使い方もあるのかとあらためて感心したものであるが、自立という言葉は日常会話でもしばしば使われる。「親元から離れ自立する」「自立した経営を目指す」といった具合である。つまり、「自立」という言葉は様々な使われ方をするし、何が自立の課題かは様々なのである。

自立という概念は法律的にも多義的

 社会保障関係の法律をみても、「自立」の意味するものは様々である。ニッセイ基礎研究所の三原 岳(みはら たかし)による自立の意味に違いを整理したものを紹介する。

表:社会保障関係法における自立の意味の整理

自立の意義本文中の中見出し
(A)支援を要する人が自己決定する自立1、障碍者基本法などの条文
(B)定職に就く職業的自立2、障碍者雇用促進法などの条文
(C)収入を得ることによる経済的な自立3、生活保護法などの条文5、母子父子寡婦福祉法などの条文
(D)社会生活に適応する自立3、生活保護法などの条文4、児童福祉法などの条文5、母子父子寡婦福祉法などの条文
(E)他人の支援を必要としない身体的自立6、介護保険法などの条文
(F)自治体の財政的自立7、医療法などの条文
(G)現場の関係職が支えるべき自立8、社会福祉士および介護福祉士法などの条文

                                    注:筆者作成を引用

 日常会話とは違い比較的言葉の意味を厳格に定義する法律の世界でも「自立」意味が多様に使われているのがわかる。自立の内容が、自己決定を意味するものから、経済的な意味での自立、身体的自立等様々な意味を持って使われ方をしているのだ。

この「自立の意味の整理」によると、介護保険における自立はADL、IADLの改善による身体的自立を意味するものとして分類されている。介護保険制度が創設された当時、介護保険は本人の自由な選択で介護サービスを選び、事業者と「契約」を結んでサービスを利用できるようにしたのが介護保険であり、その重要な理念は、「自己選択」「自己決定」それに「利用者本位」だと言われた。当時、有識者として制度創設に関わった大森彌によると「自立支援」とは高齢者による自己選択権の現われとし、自己選択を通じて高齢者の尊厳が保たれるとしている。
 ところが近年は、介護予防の強化を通じて介護保険給付の抑制を目指す「自立支援介護」が重視されており、自立とは他人の手助けを必要としない状態、つまり専ら要介護状態の維持・改善を意味するように使われるようになっている。介護保険の中で使われる「自立」の意味が変質しているといえる。

法律の世界でも、「自立」という言葉が多様な意味を持って使われており、このことは、時の政策決定者の意向により「自立」の内容が変わりうるということを意味している。

対人援助における「自立」もまた多様

 白澤政和がおこなった、ケアマネジャーに対し自立支援について尋ねた調査によると、看護師、ヘルパーが基礎資格であるケアマネは「利用者のADL・LADLを高めること」という回答が比較的多く、社会福祉士、精神保健福祉士は「自己決定を高めること」という回答が多かったと報告されている。白澤は「自立の捉え方に基礎資格が大きく影響していることが明らかになった。・・・中略・・・今後は、介護支援専門員の基礎資格を越えた自立についての考え方の標準化を、法定の研修会等で図っていく必要がある。」※1と述べている。現役のケアマネジャーですらこのような傾向があるとすれば、医師や看護師、リハビリ関係職、介護職等の各職種が連携してケアにかかわる多職種協働を考える場合、この自立に関する理解の相違はもっと多きいと推定される。今後ますます多職種が連携していくことが求められている中で、自立の内容に関する合意の形成が必要と考えられる。

さらに厚労省の文書に、ケアマネジャーは「自立支援」ができていないという批判が散見される。しかし、その判断の指標がそれぞれ異なっていたのではその批判も的を得ていないことになるのではないか。

なぜ私が「自立」という言葉にこだわるのか。その理由が以上みてきたように、「自立支援」を考える政策立案の面からも、介護の現場でのケアの実践、多職種連携を進めるという面でも、その意味を厳密にすることが求められていると考えるからである。

※1「ケアマネジメントの本質」白澤政和著 中央法規

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