介護保険が危ない 4
その4 サービス付き高齢者向け住宅にも深刻な影響
日本が超高齢化社会を迎えるなか、高齢者が安心して住み続けられる住宅を確保するために創設されたのが、「サービス付き高齢者向け住宅」(以下サ高住)です。国が建設に補助金を出しており、全国的にもその数は増え続けています。
国が想定していたサ高住の入居者は、自分で動くことができる、比較的介護の手間のかからない高齢者であり、まさに、今回問題となっている要介護1・2の軽度者がこれに該当します。
しかし、国が考えるように、軽度者は本当に介護の手間がかからないのでしょうか?
要介護1・2の認定を受けている方の中には、初期の認知症の方もいます。認知症があっても体の自由がきくため要介護度は低くなるのですが、初期の認知症の方は心身両面において不安定になることもあり、排泄の失敗、転倒、妄想、徘徊といった問題が発生することもしばしばみられます。直接的な身体介護こそ発生しませんが、軽度の方には対応の工夫や環境整備などの細やかな配慮が必要になってきます。認知症がある場合は、介護度が低いからといって、介護の手間がかからなかったり、事故のリスクが低いわけではないのです。
このような状況のなか、軽度の認知症のある入居者の方に、サ高住で安心・安全に過ごしていただくためには、認知症の進行予防や精神状態の安定といった観点から、デイサービスの利用が非常に有効です。しかし、要介護1・2の方のサービスが地域支援事業に移行し利用回数が制限されれば、落着かない時間や無為に過ごす時間が増え、事故や認知症悪化のリスクが高まります。その人の状態に応じて、適切な量のサービスを利用することで、認知症の進行予防や事故防止ができ、介護の重度化を予防ができているのです。
また、サ高住の運営の面からも、利用回数の制限は大きな問題です。必要のないサービスを提供することはありませんが、介護報酬が今以上に下がるとすれば、軽度者の受け入れが困難になってきます。特養の入所基準が要介護3以上になったため、サ高住は要介護1・2の軽度者の受け皿になっていますが、利用回数の制限が始まれば、サ高住も受入のレベルを引き上げざるを得ないでしょう。そうなれば、認知症のある軽度者は、自宅には住めず、かといって施設にも入れないという状況なってしまいます。
介護保険制度を持続可能なものにするためには、改革は必要だと思います。しかし、軽度者だからといって一律に利用を制限し、本当に必要な人に、必要なサービスが提供されないのであれば、何のための介護保険制度でしょうか。