ケアマネジャーと利用者の距離
前々回に人間関係の距離の難しさについて書いた。今回はケアマネジャーと利用者の距離について考えてみたい。
ケアマネジャーと利用者の関係を、やや硬い言葉を使うと専門的援助関係とよぶことになる。専門的援助関係とは、友達や近所のおばちゃんとは違う、プロとしての立ち位置、関係性があるということ。ケアマネジャー(援助者)が利用者(クライアント)との間で築きあげる、問題解決を進めていくうえでの専門的・職業的関係を示すものであり、もう少し具体的に述べると、その関係は、定められた期間、時間内等の援助契約のもと、信頼関係を築き、かつ専門的な距離を置いて行われるものであり。援助者からみれば専門的知識と理論、専門的技術にもとづき形成されるものである、と私は考えている。
距離という今日の本題に関していうならば、下線部の専門な距離ということになる。距離が近すぎるとそこに生じるのは「依存」や「癒着」という問題を生み出しかねない。ケアマネジメントの目的が利用者の自立であるということは論を待たないのであり、様々な困難な生活課題を抱えてパワーレスな状態の利用者を、ケアマネジャーに依存的な利用者として再生産するのは我々の本意とするところではない。自立支援とは利用者の問題解決力をエンパワーすることである。そのためには、物理的にも、精神的にも一定の距離が必要なのである。
同時に、利用者は先にも触れたように困難な生活課題、介護の不安、難しい人間関係を抱えて援助が必要な状態にあるのだから、困ったときにはいつでも手を差し伸べられる距離、ともに痛みを共感できる人のぬくもりを感じることができる距離が必要な場合もある。そうした関係は、その人に寄り添いながら人生をサポートする「伴走型支援」などとも呼ばれる。
ここで言えることはいつでも不変の、決まった距離があるわけではない。利用者の状態、ケアマネジャーとの関係性により如何にその距離を意識的にコントロールしながらうまく使い分けられるかがケアマネジャーに問われるのである。
こうした関係で、ケアマネジャーが直接利用者に働きかける主たる目的は利用者の「主体的判断」の力を育てること。それを通して自立支援に資することをめざすものであることは先にもふれた。最後にディビッド・P・マクスリーのケアマネジャーの利用者への直接サービスにおける6つの役割を紹介しておく。これらはケアマネジャーの役割として述べているものであるが、ケアマネジャーと利用者の関係性その距離を考えるうえでも参考になると考える。
- 代行者としてのケースマネジャー
利用者が何らかの危機に遭遇し対応が困難な場合、利用者に代わってケアマネジャーが判断し直接行動を起こすこと。この場合も、「安全を保証し、自尊心を強め、良好な感情や自己の表現を励ます」心理的支持が必要。
- 教師/指導者としてのケースマネジャー
利用者が「自分自身のニーズを充足させるたに有用な技能を、ケースマネジャーが直接的に教えること」
- 案内者/同行者としてのケースマネジャー
「必要な対人サービス資源を見つける際に、ケースマネジャーが利用者とともに作業を行なうこと」 一緒に作業を行なうことを通して利用者はニーズを充たすための技能と能力を身につけていく。
- 変換者としてのケースマネジャー
利用者が問題解決のため自ら判断し行動することを援助する役割。
- 広報専門職としてのケースマネジャー
様々な社会資源、サービスの情報を利用者に提供すること。
- 支持者としてのケースマネジャー
「利用者が高度な主体的判断をできる場合には、ケースマネジャーは支持者としての役割を担う」 利用者は十分な知識・問題解決技能を身につけ、自己認知ができることが必要。
(以上「ケースマネジメント入門」ディビッド・P・マクスリー著)