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高齢期と孤独(その2)

前回に続きこのテーマについて考えていくが、その前に孤立と孤独の違いを明らかにしておく必要がある。イギリスの社会学者ピーター・タウンゼントによれば、孤立とは「家族やコミュニティとはほとんど接触がないという」客観的な状態であり、孤独とは「仲間づき合いの欠如あるいは喪失による好ましからざる感じ」という主観的なものであるとしている。

今日、人生百年時代を迎え、90歳代の高齢者の存在が珍しくない社会を迎え、「無縁社会」「孤独死」という言葉が示すように、高齢者の「社会的孤立」は大きな社会的な課題となっている。高齢者の孤立が社会的な課題になっているということは、そうした高齢者の孤立が現在の社会構造の中でつくりだされているという認識と、それを社会的な政策として解決しなければならないということを意味している。また、高齢者の「社会的孤立」は日本だけの課題ではない。2018年1月、イギリスのメイ首相(当時)は「孤独は現代の公衆衛生上、最も大きな課題の一つ」として、世界初の孤独担当大臣を任命し、国をあげた取り組みを始めている。しかし、ここではこの社会的な課題についてこれ以上述べることはやめて、我々ケアマネジャーが直面しているケアマネジメントという視点から、要介護高齢者のこの問題を考えてみたい。

 まず要介護高齢者の孤立、孤独という問題についてアセスメントという視点で考える。この時、ICFの参加レベルのアセスメントが重要である。ただ、参加という言葉の意味は、通常日本語での参加が意味する内容より広くとらえる必要があると考えている。具体的には趣味や文化・社会活動への参加、地域の共同事業への参加、宗教とのかかわり、家族・知人との良好な関係、そして役割といったことがここでアセスメントされる必要がある。

 以前デンマークを訪問した時、子供は成人とともに親の家を出て独立して生活を営むのが普通だという話を聞く機会があった。かって日本にあったような三世代同居という暮らし方は無いそうである。しかし週末には子供たちは親の家を訪問して交流が行われておりその関係性は維持されている。日本も単身高齢者が増加しているが、こうした子供や家族たちとの交流がどの程度行われているかは重要なアセスメントの一つの視点になる。

 次に役割について考えてみたい。高齢期はある意味で役割からの解放でもあるから 一家の主人としての役割、主婦としての役割といったこれまでの明確な役割ではない新しい役割、生きる意味を問い直されなければならない。高齢者、特に要介護高齢者の役割を考える場合、次のような二つの視点で考えることが求められているのではないか。

➀行動的役割(出番を持ち役割を発揮すること)

出番や役割があり役に立っているという実感を持てること、能動的に自己表現する場があるということ。

高齢者が人間として生きる張り合いを失い、精神的にも老け込でしまう原因の一つに、有用感の喪失がある。自分という人間がここにいて、人の役に立っていると感じられること。高齢者にとって、人に何かしてあげられる、という機会があるということはとても大切な事である。

➁存在的役割(受動的な自己確証)

自分の存在が周りに認められ、存在や居場所が評価されていること。そこにいるだけで周りの人を喜ばしたり、ホッとさせることができる、それを存在的役割という。

精神科医の神谷恵美子はこの存在的役割を次のように述べている。「知能や学歴如何に関わらず、安らかな老いに達した人の姿は、あとからくる世代を励ます力を持っている。彼らは穏やかな微笑みを浮かべ、愚痴もいわず、錯乱もしていない。有用性よりも『存在の仕方』そのものによって周りの人々を喜ばすところが幼児と共通している。」(「心のたび」神谷恵美子著)

こうした役割は、周りの家族や親しい人々との良好な関係性の中で確証することができるのであり、そうした関係性を評価しアセスメントすることができれば、行動的役割を果たすことができない重度な要介護高齢者にとって、「生きていても仕方ない。早くおむかえに来てほしい」という思いを少しでも減らし、新しい役割、生きる意味を見出すことになるのかもしれない。

やや話が難しくなったので、孤独や孤立に悩む要介護高齢者にどのようなものが提供できるか具体的に考えてみる。これまでは可能であった諸活動への参加、その人がこれまで培ってきた対人関係との交流が困難になった要介護高齢者にとつて、介護保険が用意しているのがデイサービスである。人中に出ることをためらっていた利用者が、デイサービスを利用し始め「もっと早くから行っていればよかった」という感想を聞くことはよくある。デイサービスは要介護高齢者にとって最も有効な孤立、孤独を解消する方法であることは明らかである。外出が困難な高齢者にとってホームヘルパーさんの訪問も極めて有効である。ヘルパーさんの訪問が社会と繋がる唯一の方法である利用者にとって、その訪問がいかに待ち遠しいものであるかは想像に難くない。こうした介護保険のサービスが要介護高齢者の孤立や孤独を解決するうえで有効であることは論を待たない。

 そうした介護保険サービス以外にも、犬や猫といったペットがこうした孤独な高齢者の心をいやすことはよくあるし、最近ではAIを使ってお話をする人形と、あたかも孫やひ孫と話すように楽しんでいる高齢者もいる。窓際におかれたシクラメンの花に心を通わせる人もいる。人はどんな時孤独を感じ、何に癒されるかはそれぞれなのであろう。

さらに要介護高齢者のアセスメントを考える場合、孤独とうまくつきあう力「孤独力」とでもいえる力には個人差がある。利用者本人の孤独耐性のアセスメントも必要であると考える。

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