生活支援は不可欠な介護サービス
Kさんは3年前に脳梗塞を発症し、右半身麻痺の障害があるが一人暮らしを続けている要介護3の女性である。日中はベッド上の生活でテレビを見て楽しんでいる。何とかトイレには自力でいくことができる。そんなKさんの生活を支えているのは毎日、朝夕訪問するヘルパーの支援である。
ヘルパーの仕事は、食事の用意、掃除、洗濯、それに入浴の介助が主な仕事である。入浴を除けば、いわゆる家事の援助で生活支援と言われる仕事である。
平成30年より国は「生活援助中心型サービスについては必要以上のサービス提供を招きやすい構造的な課題がある」という理由で「訪問介護における生活援助中心型サービスについては、通常の利用状況からかけ離れた利用回数となっているケアプランについて、市町村への届出を義務付け、そのケアプランについて、市町村が地域ケア会議の開催等により検証を行う」ということになり下記の表の回数を超える利用者のケアプランは市町村に届け出をしなければならないということになった。要は、ヘルパーの生活支援を使いすぎている疑いがあるということである。
要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 |
27回 | 34回 | 43回 | 38回 | 31回 |
Kさんは朝夕2回で30日とすれば60回となり、要介護3の基準の43回を超えることとなるので、市町村にそのケアプランを届けねばならないこととなる。
なぜこんなことが行わなければならないのか。その背景には財務省の意図が強く影響していると考えられる。令和3年度の介護保険の改定にあたり財務省は、要介護1、2の訪問介護も総合事業へ移すよう改めて注文をつけた。給付費を抑制することが目的である。特に問題視しているのは、掃除や洗濯、調理などを行う生活援助だ。「必ずしも自立支援につながっていない」として、介護給付から除外すべきとしている。
訪問介護の生活支援は、そのスタートから軽く見られてきた。「家事は女ならだれでもできる」という考えで、訪問介護の中でも低く評価された。今どきの言葉で言うならジェンダーバイアアスである。そうした古い考え方はさすがに今は声高に主張されることはないが、役人の言葉で言えば「自立支援ができていない」ということで生活支援を介護保険から外し、ボランティアや地域の助け合いでやってくださいということが企まれている。
もしこれが実施されればKさんの生活はたちどころに立ち行かなくなるのは誰が見ても明らかである。こんなKさんのような高齢者はたくさんこの地域にもいる。
全国的にも一人暮らしの高齢者は増えており、近い将来夫婦二人の世帯よりも多くなろうとしている。この地域ではすでに一人暮らしの高齢者の世帯が圧倒的に多い。こうした高齢者が少し身体が不自由になったとしても、家事の支援があれば生活できていくことは可能だ。生活支援を介護保険から外すことは、こうした要支援、要介護高齢者の死活問題である。
この制度には、現場から負担が多いという声が寄せられたため、令和3年4月介護保険改定では「検証の方法は地域ケア会議のみならず、行政職員やリハビリテーション専門職を派遣する形で行うサービス担当者会議での対応を可能とする」となっている。検証を求められた行政の職員やケアマネジャーにとっても大変不評だったこんな制度に、人とカネを費やすばかげたことはすぐにでもやめた方がいい。迷走する介護保険である。