1. HOME
  2. ブログ
  3. ケアマネのつぶやき
  4. 高齢者の孤立(その2)

つぶやき

つぶやき

ケアマネのつぶやき

高齢者の孤立(その2)

前回に引き続き「介護保険、ケアマネジャーは高齢者の社会的孤立に何をなしうるかを考えてみたい。

利用者やその家族とケアマネジャーがかかわるとき、その家族と社会に大きな壁があると感じるときがある。言葉を変えると、風通しの悪い家族である。そうした家族の中に介護問題が生じると、外に支援を求めにくいため、家族の中に新たな軋轢と葛藤を生じることになる。そして虐待といった問題を生じさせる可能性も高い。こうした家族にはいわゆる「多問題家族」といわれる場合も少なくない。こうした家族に介入することは、前にふれたサービスを拒否する高齢者同様困難を伴うことが多い。介入の機会が得られれば、とりあえずケアマネジャーを含む専門家が出入りできることで、少しでも風通しを良くしようと試みる。家族に介入できる専門職が複数できると、社会とその家族を隔てる壁を少しでも低くし、問題の解決に近づくことができる。もちろんそれでその家族がもつ問題がすべて解決するわけではないが、とりあえず問題がより深刻化することは回避できるであろう。

介護保険が対象とする要介護状態にある高齢者でありながら、地域から孤立した高齢者や家族は存在する。そこでケアマネジャーに求められるのは、拒否されても関わり続けるアウトリーチ機能であり、そうしたケアマネジャーの仕事に対する介護保険上の評価が必要だと考えている。

孤立した高齢者にとって、介護保険の通所サービスは社会参加の場所として有効である。移動が困難になり、家に閉じこもりがちだった高齢者がデイサービスに参加するようになって、生活に張りをとりもどし、生活の質が向上したケースは数限りなく、「こんないいとこならもっと早く来ればよかった」という声を多くのケアマネジャーが聞いている。

またホームヘルパーも大きな役割を果たしている。誰とも会話することなく、猫だけが話し相手だった高齢者にとって、ヘルパーは次回の訪問が待たれる大切な存在となる。「仕事はいいから、まず話を聞いてくれ」という利用者の言葉に、仕事の手を止めて話を聞くべきか、まず仕事をしなければと悩むヘルパーさんの声を聴くことは多い。

社会的孤立が健康の社会的決定要因の一つであることはこれまでの研究で証明されており「孤独は、たばこや肥満同様、もしくは以上の健康リスク」であるという指摘もある。

だとするならば介護保険のこうしたサービスは、重度化防止、介護予防に大きな役割を果たしているのであろう。

但し、時としてこうした介護サービスの提供の結果、これまでその利用者が培ってきた近隣や知人、親戚の関係を希薄にしてしまうことがある。これまで気にかけて毎日訪問してくれていた近隣の人々にとって、ヘルパーさんが毎日来てくれることは何よりも安心であることには違いないのであるが。しかし考えてみよう。ヘルパーやケアマネジャーといった専門的支援者が利用者にかかわることができるのはごく限られた時間である。利用者の大半の時間帯はこうした家族や近隣、親戚といった非専門的支援者とのかかわりである。だとするならば、必要最低限の支援は専門的な支援者のサービスにより利用者の生活を支えるとしても、それ以上にその人が今まで培ってきたネットワークをふくめインフォーマルな支援の再構築が必要ではないか。そのためケアマネジャーは利用者を取り巻くインフォーマルな資源のアセスメントが大切になる。

こうした状況の中で社会的処方という考え方は参考になる。社会的処方とは「認知症、鬱、運動不足による各種疾患・・・医療をめぐる様々な問題の上流には近年深まる『社的孤立』がある。従来の医療の枠組みでは対応が難しい問題に対し、薬ではなく『地域での人のつながり』を処方するのが『社会的処方』」※という考え方であるとともに、その実践がすでに日本でも始まっておりその成果が注目されている。

(次回に続く)

※「社会的処方」西智弘著 学芸出版社

関連記事