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ケアマネのつぶやき

家で死ぬ(その2)

――自宅で天寿を全うした人々――

 多くの人が「最期は家で終りたい」と願っている。あすかのケアマネジャーがお世話をし、その願いをかなえることができた、幸せな人たちのお話を紹介しよう。

その1

90代半ばのご夫婦は、頑固な(この地域では「いちがいな」ともいう)夫と従順な妻の二人の生活を続けていた。夫は腎臓病の悪化で人工透析を勧められていた。しかし夫は透析を拒否、「延命治療もしない」「苦労を掛けるが妻とは別れたくない」からと最期まで家での二人の生活を希望した。

亭主関白をその字の通りに生きてきた夫に対して、妻は「よく怒鳴られたし、この人は私のことをお手伝いさんくらいにしか思っていないの」と語っていたが、亡くなる1日前に「お前も苦労するな・・・」という夫の朦朧とした意識の中でつぶやかれた言葉に、すべてが報われたような気持になったと語っていた。

本人のADLが低下し介護が大変になってから最期までの期間が長くなかったこともあり、介護はその妻と、遠方から交代で帰ってきて母親を支えた息子や娘の手によるもので、介護サービスを使ったのはベッドだけであった。その意味では、家族で最期まで看切ったといってもいいであろう。ケアマネジャーは、本人の「最後まで妻と一緒に」思いを尊重しつつ、遠方の娘と頻回に連絡を取り、家族の支援に力を注ぐこととなった。

家族は父を送った後、ケアマネジャーに対し「最後まで頑固な父でしたが、思い通り行けて幸せだったと思う」と語ってくれた。

その2

右足の壊疽で入院していた96歳のAさんは、自宅に帰ることを強く望んだ。要介護5で高齢なAさんを、主治医は自宅に帰るのは無理だからと施設を勧めた。しかし本人と娘の強い希望を受けて、ケアマネジャーは帰って治療を継続しながら生活できるように、医療関係者(かかりつけ医、訪問看護師)に本人の「最期まで家で」との意向を伝え、打ち合わせを重ね、訪問診療や訪問看護の体制を整えた。

介護は、近くに住む二人の娘たちの働きによるところが大きく、看取りを決めたときから24時間体制で二人の娘さんが交代で付き添いをしてきた。しかし何といってもAさんを最期まで看きることができたのは訪問看護の支援によるところが大きかった、とケアマネジャーは考えている。主治医と連携をしながら、何度も昼夜を問わず訪問し、本人や家族の不安に寄り添い、適切な支援を続けた訪問看護が、本人の「家で最期まで」という思いを実現させたと思っている。

しかし言葉を変えるならば、本人は元気なころから娘たちに「家で死にたい」と伝えていた。この気持ちはケアマネジャーも早くから伝わっていた。本人のこうした強い思いが、子供たちや、ケアマネジャー、そしてかかりつけ医や訪問看護師を巻き込んで、96歳の見事な最期を作り出したのではないか。大変な日々ではあったが、傍で母親の最期を見届けることができた娘たちの満ち足りた笑顔が、ケアマネジャーの脳裏に今でも残っている。

その3

Bさんは106歳になるまで大きな病気をすることもなく、息子と二人での生活を楽しんでいたようだ。寝たきりになってからも、近所の桜の花を見に行きたいと語ったり、息子が作る庭の野菜をベッドから眺めたり、日々の穏やかな暮らしを楽しんでいるようであった。

ケアマネジャーのサービス利用の勧めに対しては、「デイサービスも行きたくない。施設に入るのもいや。自宅でこのままいるのが幸せ」と語っていた。

本格的な介護が必要になると息子は、「自分達だけでは介護は無理、介護サービスを利用しながら、最期まで家でできる限り介護していきたい」と語り、ケアマネジャーは訪問看護、訪問介護、入浴のための短時間のデイサービスの利用を計画した。徐々に衰えを見せ、通院が困難になると、かかりつけ医から訪問診療を行っていただける医師を紹介してもらい、さらに食べることができなくなってくると、訪問診療と訪問看護による点滴も行われるようになった。最期は息子に見守られながら住み慣れた自宅で旅立つことになった。息子は「最後は大変だったが、ヘルパーさんや先生、看護師さんにお世話になり、本人が望む自宅で最期を迎えることができてよかった」と語っていた。

このように自宅で最期を迎え、家族も納得して送ることができるケースは決して多くはない。たとえ本人は「自宅で最期まで」と希望していても病状や家族の意向で、その願いが叶えられないことのほうが多いのかもしれない。

でもケアマネジャーは本人がそれを望むなら、その実現のために奔走することとなる。もし、それを実現させるために何が一番大切かと問われたら、私は本人の強い意志だと答える。しかもその強い思いは家族をもその気にさせることとなり、強力な支援者にその家族を変えていくことになる。それを、ここで紹介した事例から学ぶことができる。それは遠くに住む息子や娘と離れて暮らす一人暮らしの高齢者の場合も変わらない。

さらに、訪問診療を行ってもらえる医師、訪問看護師の存在は大きい。「家で最期まで」という思いを実現するためにはなくてはならない専門家達であることは論をまたない。

                       (内容は一部修正しています。つづく)

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