10月から始まるケアプランの検証
今年10月から、新たなケアプラン検証制度が実施される。10月から導入される制度とは「事業所全体のサービス費の総額が区分支給限度基準額の7割以上を占める」こと。さらに「事業所全体のサービス費の総額の6割以上が訪問介護」であること、この両方の基準に合致した居宅事業所が届け出の対象となる。
介護保険では介護度別に利用者が介護保険サービスを利用できる限度額がはじめから決められている。やや古い資料になり恐縮であるが平成26年4月審査分にもとづいて作成された資料によれば、各介護度別の区分支給限度額と実際の利用率を示したものが下記である。現在限度額は少し変わっているが、利用割合等の大きな傾向は変わっていないので紹介する。
区分支給限度額 実際の利用割合
要支援1 50,030円 37.8%
要支援2 104,730円 31.9%
要介護1 166,920円 44.6%
要介護2 196,160円 53.0%
要介護3 269,310円 57.9%
要介護4 308,060円 61.6%
要介護5 360,650円 65.3%
これからみると区分支給限度額の7割以上利用し、しかも訪問介護のサービス利用が6割以上という、今回の検証の対象となるのは、そんなに多くはないことは十分想定されるし、実際、厚労省は居宅介護支援事業所の3%が対象になるのではないかと推計している。
今回のこのケアプランの検証のターゲットとしているのは、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームにおける特に訪問介護を中心としたサービス提供の在り方にメスを入れようというものであろう。つまりこうした住宅に併設された訪問介護事業所から独占的、集中的にほぼ限度額いっぱいまでのサービスが提供されているという現実を問題としているのである。もちろんすべてのこうした高齢者住宅においてそのようなことが行われているわけではないであろう。しかしそうしたサービス付き高齢者住宅や有料老人ホームが存在し、国もその問題を注目していることは次の資料からも確認できる。
・併設事業所を利用しているサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)居住者の方が、一般在宅等のサービス利用者よりも介護サービス利用量が多い。・総単位数については、併設事業所を利用しているサ高住居住者の方が要介護度ごとの平均値が25~45%ほど高いことが確認できた。・サ高住は今後も増加していくことが見込まれており、居住者に対して過剰なサービス提供が行われているのであれば、適正化していくことが必要である。 (2019.10.08 財務省「2019年度予算執行調査の調査結果の概要(10月公表分)」) |
こうした高齢者住宅は最初から介護度別にその区分支給限度額いっぱい利用することが決められている場合も少なくない。そうした住宅のオーナーが銀行から借り入れをして建設した場合、銀行の返済計画にその部分を織り込んでいることだって珍しくないのである。
今回はこうした高齢者住宅に焦点を当てた対策を、ケアマネジャーの作成するケアプランの検証という形で行うということである。ここにケアマネジャーにとっての悩ましい問題が存在する。本来、居宅介護支援事業所やそこで働くケアマネジャーには次に示すような公正中立が求められている。
「指定居宅介護支援の提供に当たっては、利用者の意思及び人格を尊重し、常に利用者の立場に立って、利用者に提供される指定居宅サービス等が特定の種類又は特定の指定居宅サービス事業者等に不当に偏する ことのないよう、公正中立に行われなければならない。」 (「指定居宅介護支援の事業の人員及び運営に関する基準」の第1条基本方針) |
やっと入所させてもらった、こうした高齢者住宅の、「めいっぱいの訪問介護サービスを使ってください」という責任者の圧力ともいえる方針に対して、ケアマネジャーはNOと言えるかどうかである。もちろんその住宅併設であったり関係の深い居宅介護支援事業所のケアマネジャーの場合はまずNOということは不可能であろうと思われる。つまり、居宅介護支援事業所やケアマネジャーに求められる公正中立に反するような現実にケアマネジャーは直面せざるを得ないのである。
この問題に関しては、以前にこのホームページに記したので以下にその一部を再掲しておく。「こうしたサービス付き高齢者住宅は国の政策として推進されてきたものである。高齢者施設への入所を希望する、いわゆる多くの待機高齢者の存在に、国は高齢者施設の増設ではなく、こうしたサービス付き高齢者住宅として、多少の補助金をつけることにより民間にまかせた。その結果、全国に雨後の筍のようにサービス付き高齢者住宅が誕生したのである。こうした民間の事業所や個人が行うサービス付き高齢者住宅は慈善事業ではないから、当然のごとく利益を追求してその料金設定を行う。したがって、介護保険サービスを最大限使うことを前提に経営が行われていくこととなるし、これを規制するものは何もない。
今回のケアプランの検証はあくまで事業所単位で行われるものであるから、すべてのケアマネジャーのケアプランが対象とするものではない。しかし、公平性を求める介護保険とサービスの市場原理が交錯するそうした現場での矛盾の中で働くケアマネジャーにとって、この問題はきれいごとでは済まない、悩ましい問題を生み出しているのである。