ケアマネジメントと価値
ケアマネジメントは、対象となる高齢者個人ごとに、身体的、精神的、心理的、社会的状態を評価(アセスメント)し、ケアプランを作成する。高齢になるほど個人の差は大きくなると言われている。したがってそこで作成されるケアプランも多様なものになる。そこではこれまでも述べてきたように多様性をいかに受け止め、プランとして描き出すことができるかが問われる。
そのケアマネジメントの多様性とともに大切にされるのがケアマネジメントの価値というものがある。そこにあるのは「個人の尊厳」「人権」「自立」「自己決定の尊重」といった普遍的で基礎となる考え方である。ケアマネジメントは価値の実現をその重要内容とするとも言える。この価値とは、家を建てる場合の基礎に例えることができる。見かけは素晴らしい家を建設したとしても基礎がしっかりしてないと、台風や地震といった自然災害にあうと危うい建物になってしまう。有能な対人援助の専門職に求められているのは、「価値」、「知識」、「技術」それぞれが一定の質をもってバランスよく備わっていることであると言われている。
こうした価値が行動化される場合を倫理と言い、多くの専門職はそれぞれに「倫理規定」というその職業、専門性に期待される行動の原則を示した職業倫理を持っている。ケアマネジャーの場合、介護支援専門員の職能団体である「日本介護支援専門員協会」が「介護支援専門員 倫理綱領」を定めている。
ところがケアマネジャーがこの価値や倫理の実践にあたっていくつかのジレンマと向き合うことが少なくない。その一つが利用者やその家族、地域との間で生じるジレンマである。
今日の高齢者の家族をめぐる意識として、かっての家族主義の影響は根強く残っている。「親の面倒を看るのは子の務め」その代わり「老いては子に従え」といった考え方である。そうした考え方を支えた、三世代家族の消失や女性の社会進出等により高齢者や家族を取り巻く実態は大きく変わっている。にもかかわらずそうした意識はなくなったわけではない。そこでは、高齢者本人の自立や自己決定は無視されがちになる。「あそこの息子は年老いた親をほっておいて。何とかしたら」という地域の声もまた同じようなものである。ここではケアマネジャーは、向き合う高齢者の個人の尊厳や自立、人権はとりあえず棚上げにすることにならざるを得ない場合がある。
ケアマネジャーが向き合う価値に関するジレンマは時として、介護サービス事業者の経営理念であったり、自らの勤務する事業所の管理者との間でも生じることもある。
確かに法律では「個人の尊厳の保持を旨とし」(社会福祉法第3条)となっている。しかし現実は法律に書かれていうるからその通りになるというようなものでもない。「個人の尊厳」「人権」「自己決定」などの原則は、第2次大戦後の日本の社会に持ち込まれ、憲法にも「すべて国民は、個人として尊重される」とされている。ところが「日本の美風」という言葉に象徴されるように、戦前の封建的な価値観の清算がなされないままそれを引きずっている社会的な意識が一方で存在している。価値は、歴史的、文化的社会的背景など様々な条件の下で形成されるということなのであろう。
だからこそ私は、ケマネージメントの普段の実践の中で、この価値大切にしなければならないと考えている。