家族支援
―――家族間の媒介機能を果たすケアマネジャー―――
Aさんは93歳になるが、妻が亡くなってからずっと一人で暮らしてきた。さすがに90歳を超えてからは食べることや掃除、洗濯といった家事も思うに任せず、二人の娘に頼ることが多くなった。長女は隣町に住み自らの嫁ぎ先の老親の世話が必要となっており、気持ちはあるがなかなか実家に帰って父親の世話を行うことは大変になっている。次女は同町内に居住して日中は働いている。もちろん家庭はあるが多少無理をしても父親の面倒を看なければと考え、毎日訪問して世話をしている。ただそれだけではAさんの生活が立ちいかないのは明らかで、娘たちの強い要望でデイサービスと訪問介護のサービスを利用することとなった。しかしAさんにとって、デイサービスはともかく、ヘルパーの訪問介護は認めがたいものであった。己が身の世話をするのは娘以外に考えられない、という強い確信があるからである。したがってヘルパーが訪問するたびに「もう来なくていい」と言い抵抗する。
こうした日々が繰り返される中で、ケアマネジャーは介護している次女と話をする。次女は「もっと長女に親の介護にかかわってほしい。」「このままでは自分も仕事を続けていくのが困難になる」という。長女は、「自分も長女として責任は感じるか、嫁ぎ先の親の世話だけで手いっぱい。これ以上言われても・・・・。施設に入ってもらうしかないのかもしれない」と。
介護されるAさん、そして二人の娘、今のところそれ以外に登場人物はいない。ケアマネジャーはそれぞれ異なる意見に対し考える。「一体私に何ができるの?」と。
かって私は「ケアマネのつぶやき」の中で次のように記したことがあることを思い出した。
「それぞれの家族にはそれまでの長い歴史がある。成人とともに子供たちは新たな家族を形成し独立していった。ところが老親の介護という新たな問題に直面した家族は、いやおうなく再び向かい合い、お互いを理解するために話し合いをはじめ、新しい関係性をつくることを求められているように思われる。うまく新しい関係性を自分たちで調整できる家族は問題ないが、それがなかなか難しい作業となってしまう家族もある。」
現実に進行しつつあるこのケースに有効かどうか はなはだ心もとないのではあるが、とりあえず解決の道筋を探るとすれば、まず第一、に家族員コミュニケーションへの支援であろう。ケアマネジャーがそれぞれに働きかけ、本人と家族が対等に向き合い、本人たちがそのずれを調整していくという媒介機能を果たすことができるかどうかである。
その際必要なことは、家族には現在のそれぞれの生活とともに、固有な歴史があるという視点は不可欠であろう。長い歴史のなかで培われた家族の関係性は簡単には変わらない、できるとすればお互いの対話を通じての微調整程度であろう。また、それぞれに娘たちの介護力の客観的な評価も必要であろう。 いずれにしても、この段階で問われるのはケアマネジャーの交渉力である。これもまたケアマネジャーに求められる一つの能力であることには間違いない。
付言するならば、「家族支援を考える」といったテーマで一般論としてこの問題を議論することは無意味であると考える。なぜなら、リアリティーの中にしか明日を描くことはできないであろうから。
さて、以下に当該ケアマネジャーが本事例に対して行った具体的な支援とそこから学んだことについて記載する。
支援した事
・介護の評価を行い、本人、長女、次女の出来ている所、強みを評価して、各々に伝えました。
・今後の方向性のアドバイスを行いました。
これに対して現在の家族が決めた結論
・本人の意向、家族の意向に対応した折衷案、微調整としてデイサービスを増やす事となりました。
以下感想、このケースの支援をして思った事です。
・今までは、父親の希望、意向に沿った介護を行ってきた。
・家族それぞれ、父親の介護に対する理想像があり、理想に向かって努力してこられた。
・娘の一人は、自分の身体、精神の疲労が積み重なった事により父親の安心、安全を第一に考える様に変化していった。
本事例を通して家族支援に大切だと考えた視点
第一に介護力の客観的評価、精神的支援、家族の自立支援。
第二に家族員のコミュニュケーションへの支援、媒介機能を果たす。
第三に方向性のアドバイス。