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ケアマネのつぶやき

生活保護受給中の車の運転

以下は朝日新聞デジタル2022年8月21日の記事の抜粋である。

三重県鈴鹿市社会福祉事務所が身体障害がある息子の通院に限って、車の利用を認める決定をしたことに対し、三重弁護士会は「日常生活での利用が認められるべきだ」として決定を変更するよう同事務所に勧告した。

 生活保護世帯の車保有については、1963年の旧厚生省の通知で、「障害者の通院のために定期的に利用されることが明らか」などの要件を満たしていれば認めてよいとされている。

勧告書などによると、女性と障害がある50代の息子の世帯は昨年6月、同事務所に息子の通院のため車使用を申請。同事務所は昨年7月、「利用のたびに、運転記録票に必要事項を記録し、毎月提出する」などの条件を付し、「息子の通院に限り利用を認める」と決定した。同事務所は決定に基づき、数度にわたり運転記録の提出などを口頭や文書で行政指導。今年6月、提出された運転記録票に虚偽記載があったなどとして、生活保護の廃止に向けた聴聞を行うと通知した。

 これに対し、三重弁護士会は勧告で過去の判例などを引き、旧厚生省通知の要件を満たして車の保有が認められたからには、「日常生活でも利用することは、生活保護法が定める被保護者の自立助長や保有資産の活用の観点から、当然に認められるべきだ」との見解を示した。その上で、運転記録票の提出などの条件を付け、通院に限って車の利用を認めた決定や行政指導は法の趣旨に反した過剰な制約で、移動の自由やプライバシー権を侵害するとした。

生活保護は生活に困っている人に、憲法が定める最低限の生活を保障し、その人が自力で生活を立て直していけるよう援助することを目的として設けられている制度である。保護の申請にあたっては「預貯金がない」「不動産などの財産がない」などいくつかの条件が課せられており、車も資産とみなされるので、生活保護受給中は原則車を所有も運転もできないとされているが、特別な理由があり車の所有が認められる場合もある。次のような場合、車の所有が認められることもあるとされている。

1. 通勤や通学に利用する

「公共交通機関の利用が著しく困難」な場合で、どう考えても車が無ければ通勤が難しい場合や、また、何らかの障害があり、通勤や通学に車が不可欠な場合、保育園への送迎等が      

このケースに含まれるとされている。

2. 通院に利用する

病気があって定期的に病院に通わなければいけない場合で、「公共交通機関の利用が著しく困難」な場合、車の所有が認められるケースがある。

3. 自営業のために利用する

自営業を営んでおり、事業を続ける上で車が不可欠な場合は認められるケースがある。

4. 半年以内に生活保護から脱却する見込みがある

就労の予定があるなど6ヵ月以内に生活保護から脱却することが見込まれる場合には、車は処分対象から外れることがある。

なお、これらの要件を満たす場合でも、所有が認められる車は処分価格が低いものとされており、処分価値の高い高級車の所有は認められない。

 

 さて今回の鈴鹿市の判断をどのように考えるか私見を述べてみたい。

福祉事務所が自動車の保有を認める際、「保有を認めた目的以外に使用しない」ように求めることは少なくない。しかし、もともと「公共交通機関の利用が著しく困難」場合に認められているのであるから、目的以外であっても使用ができなければ大変不自由なこととなる。過疎地における高齢者の運転免許証の返納は高齢者の死活問題だともいわれているが、生活保護の受給者も同じである。生活保護の受給とともに買い物などもできず、途端に生活に支障を来すこととなり、そもそも生活保護の趣旨からしてもおかしな話である。今や自動車の普及率は一世帯に1台どころか2台所有という世帯も決して珍しくない時代である。

そもそも「保有目的以外で利用してはならない」とする明文化された規定があるわけではない。また、平成25年の大阪地裁判決では、「日常生活において保有する自動車を利用することなく、費用を負担してタクシーを利用したり、第三者の介護を求めたりすることは補足性の原則(生活保護法4条1項)にも反する」とした上で、「当該自動車を通院等以外の日常生活の目的のために利用することは、被保護者の自立助長(生活保護法第1条)及びその資産の活用(同法4条1項という観点から、むしろ当然に認められるというべきである」と述べている。また、秋田県知事平成19年1月31日裁決も、生活用品として認めた自動車を通勤に使用したことを「生活保護の趣旨に反しない」とした上で、勤労収入から維持費(燃料費や車検代)の控除を認めている。

 「利用のたびに、運転記録票に必要事項を記録し、毎月提出する」などと条件を付け、提出された運転記録票に虚偽記載があったとして、保護を取り消すなどというやり方は昔の悪代官がやりそうなことである。今回の三重弁護士会の勧告はさしずめ水戸黄門の印籠ということになるのであろうか。

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