「103万円の壁」
介護現場で働く多くの女性が、働く時間を調整して年収を抑える「就業調整」をしている。税制や社会保険の制度上、収入を抑えるほうが有利になる「年収の壁」があり、女性の経済的な自立を抑えるとともに、介護現場の人材不足の一因ともなっている。
103万円や130万円の年収制限は税制や社会保険と連動している。所得税課税では、本人の年収103万円、配偶者控除や配偶者特別控除では配偶者の年収103万円、社会保険では扶養家族の年収130万円で対象になるかどうかの線引きがそれぞれあり、「103万円の壁」「130万円の壁」と言われてきた。
こうした税制や社会保険の「壁」に加え、企業が従業員に支給する「配偶者手当」はこの壁を一層強固にしている。 企業により名称や内容はさまざまだが、家族を持つ従業員に支給する「家族手当」、家族のうち配偶者を対象とする「配偶者手当」などがある。
人事院「職種別民間給与実態調査」によると、2021年には4社に3社は家族手当があり、その約4分の3は配偶者も対象としている。配偶者だけの場合、月額は平均1万2713円だ。ほとんどの場合、配偶者の年収制限があり、103万円や130万円が主流になっている。 配偶者手当は「妻は家事・育児、夫は仕事」という夫婦間の性別分業を前提としており、現状に見合わないとされ見直しが進んでいる。もちろんいっきに家族手当をなくすことは働く人の賃金の切り下げにつながり簡単にそれがなくなるわけではないが、同一労働同一賃金の流れも、配偶者手当など家族手当の見直しを求めている。いずれにしても、家族手当は縮小に向かう過渡期にあると言えるようだ。
介護現場で働く女性にとって、こうした「103万円の壁」が無くなれば人材不足解消につながると考えられる。
ところが今年10月1日から、従業員101人以上の企業は、パートなど短時間労働者も社会保険加入の対象となることになった。介護の世界で従業員101人以上の事業所はそんなに多くはないので、その影響がどの程度かはわからないが、一般企業では10月1日以降は社会保険も適用になる可能性があると伝えると、「配偶者の扶養に入っているので社会保険には加入したくない」、保険料が支給総額より天引きされ「手取りが減るのは困る」という声が多く、結果として退職を希望するといった現象も出ていると聞く。さらに、短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用は2024年には、従業員51人以上に範囲が拡大されるといわれている。
いずれにしても、税制や社会保険、それに家族手当といった制度が今後どのようになるのか。介護現場の人材不足にも大きな影響を与えることになることは間違いないようである。