介護保険法の一部を改正する法律案が国会に
介護保険法の一部を改正する法律案が、令和5年2月10日、国会に「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」の一括法案として提出された。
今回は介護保険部会で検討されてきた、「ケアマネジメントに利用者負担を導入」「介護1・2への訪問介護・通所介護を介護保険給付から外し地域支援事業に」「利用者負担を原則2割にする」といった反対意見の多かった懸案は見送られたため比較的地味は改正と言えるようだ。ここではその中でも気になったいくつかの点で考えてみる。
まず注目したいのは「地域包括支援センターの業務の見直し」として、介護予防支援事業者の指定は、地域包括支援センターの設置者に加えて、指定居宅介護支援事業者も指定が受けられるようにするものである。これについては前にも述べたように要支援から要介護までのケアマネジメントの一体性を確保するという意味では、我々居宅介護支援事業所としても歓迎するものである。ただし問題は介護予防支援に支払はれる報酬の問題がどのようになるかで未知数な部分が多い。この点では2021年の介護報酬の改定で、今回の地域包括支援センターの負担軽減と同じ目的で「委託連携加算」が新設された。地域包括支援センターが居宅介護支援事業所に委託する場合、1か月についてのみ300単位の加算が算定できるというものだ。この点について東京都介護支援専門員研究協議会が行った調査結果が、2月17日付のシルバー新報に以下のように報道されている。「介護予防プランの委託『増えていない』が9割」その理由の一つとして「事務負担は要介護高齢者と変わらないのに介護報酬が低い」があげられたと報道されている。このことからみても、たとえ居宅介護支援事業者が指定を受けることが可能になったとしても、報酬が今のまま低く据え置かれたままなら、地域包括支援センターの負担軽減という目的もうまくいかないことが予想される。
また、少し気になるのが「地域包括支援センターで実施している包括的支援事業(介護保険法第115条の45第2項)のうち「総合相談支援事業」(同項第1号)の一部を、指定居宅介護支援事業者その他省令で定める者への委託を可能とする」とされている点である。これも地域包括支援センターの負担軽減ということであるが、どのような形での委託になるのか、気になるところである。
次に、介護サービス事業所・施設における「生産性の向上」として、都道府県が事業所に対して助言・援助を行うに当たっては、介護サービス事業所・施設における業務効率化、サービスの質の向上などの生産性の向上に資する取組が促進されるように努力義務を課すものである。厚生労働省からはすでに「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」(改訂版)が令和4年3月に発行され、事業所に対して「生産性向上」に取り組むよう求めている。今回の法改正はこのガイドラインを受けてのものであることが考えられる。今、介護保険事業所に対してはBCP計画の策定等いくつかの計画策定義務が課せられているが、また新たに「事業所の生産性向上計画」?のようなものが今後求められれてくるのではないかと考えると頭の痛い話ではある。介護サービス事業所の「生産性の向上」とはいったい何を意味するものか。この点については改めて記すことにする。
さらに、「介護サービス事業者経営情報の調査及び分析」として、都道府県知事に対して、事業所・施設ごとの収益・費用等(介護サービス事業者経営情報)について、調査分析を行い、その内容を公表するよう努力義務を課すとともに、介護サービス事業者に対しては、都道府県知事への「介護サービス事業者経営情報」の報告を義務付けられることになる。この目的は「地域において必要とされる介護サービスの確保のため」としている。都道府県が介護事業所の決算状況まで把握し丸裸にして何をしようとしているのか。あまり気持ちのいい話ではない。