障碍者 65歳の壁
「障碍者にとって65歳の壁」があると言われている。最近この問題をめぐって東京高裁で新たな判決が示されました。
障碍者は65歳になると、これまで利用してきた「障害福祉サービス」から原則として「介護保険サービス」に切り替えなければならない、という制度上の問題がある。この結果、受けられるサービス内容が変わるため、これまで利用していたサービスが利用できなくなったり、利用者の負担が増えるといった問題が生じている。
この問題に関して、65歳になったことを機に千葉市に障害福祉サービスの支給を打ち切られ、介護保険サービスへの移行で自己負担が生じたのは不当だとして、脳性まひの天海正克さん(同市・73)が処分の取り消しなどを求めた訴訟の控訴審で、東京高裁(村上正敏裁判長)は3月24日、千葉市の処分は違法だとして、取り消しを命じた。
障碍者が65歳になると障害者サービスではなく介護保険サービスへの変更を求められる根拠は障害者総合支援法第7条による。千葉地裁はこの第7条は自治体の裁量権のない規定であるとして、千葉市の対応を適法なものとしていましたが、今回はこの判決が覆されたことになります。同様の判決は2018年12月広島高裁で、同法7条は自治体に裁量権があり、障害者サービスの継続を認めるべきだという判決をだしている。
この問題に対して、厚生労働省は原則介護保険優先としつつ、「一律に介護保険サービスを優先させることなく、個々の状況に応じて支給決定がなされるよう」という通達を市町村に出しており運用での解決を図っている。東京・国立市のように「介護保険は強制しない。介護保険の申請がない限り、障害福祉サービスを継続できる」と、介護保険との併用も含め障害福祉サービスを提供している自治体は増えてきている。しかし、障害福祉サービスは税金で賄われており、自治体の負担が大きいため、介護保険優先の原則を守る自治体も少なくない。
障害者サービスと介護保険サービスの大きな違いは利用料の違いである。障害福祉サービスは収入に応じて費用を負担する「応能負担(低所得の場合は無料)」なのに対し、介護保険サービスでは基本的に1割負担。所得によっては2〜3割も負担しなければならない。これは就労が困難で障害年金等で生活している障碍者や少ない年金で生活を維持してきた人たちにとって、65歳を過ぎて生じる負担の増加は大きな問題である。障害者にとっては死活問題であるといえる。
障害者総合支援法の第1条(基本理念)には「全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること・・・・・障害者及び障害児にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去に資することを旨として」とある。「障碍者の65歳の壁」と言われる介護保険サービス優先という制度(障壁)こそ除去されるべきであろう。