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介護サービス事業所における「生産性向上」

令和5年5月「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」という長い名前の法律が国会で可決され公布された。この法律は健康保険法やいくつかの法律が丸められており、その中に介護保険法も含まれている。介護保険の改正は、介護サービス事業所の経営情報を会計年度ごとに、都道府県に報告しなければならないとされたこと。地域包括支援センターの業務の見直しのため、居宅介護支援事業所も直接介護予防支援の指定を受けることができる等の改正が決められている。

それらの改正とともに注目したのが「介護サービスを提供する事業所又は施設における業務の効率化、介護サービスの質 の向上その他の生産性の向上に資する取組」が特別に取り上げられ、都道府県の指導や市町村の介護保険事業計画の中に位置づけるように求められたことである。

介護人材不足が深刻化している現在、今後も増え続ける介護ニーズに対応していくことは困難であると言われており。持続可能な介護システムを構築するためには、生産性の向上が不可欠だというのが国の考え方である。そのため最近の介護報酬改定でも、見守り機器の導入を要件として夜間の人員配置を一部緩和したり、介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」を作成し、介護現場の生産性向上に向けた取り組みをかなり声高に推進している。

こうした国の「介護サービス事業における生産性向上」の取り組みが進む中で、社会保障審議会介護給付費分科会の席上、石田路子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事(名古屋学芸大学客員教授)からこんな意見が出されたと報道※1されている。「生産性向上という言葉を国が何度も繰り返し使っている。介護現場の方々とお話をさせて頂くと、その言葉への拒否感のようなものを強く感じる」「我々はこうした審議会で介護現場を良くするための議論をしているわけだが、それが介護現場の方々の心に響かなければまずいかなと。もう少し文言にもこだわった方が良いのではないか」と。

「生産性向上」という言葉をめぐっては、前回の審議会でも同様の意見が出された。鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)が、「趣旨はよく分かっているが介護現場にはなじまないのではないか」と指摘。「もっと相応しい言葉を使って頂きたい」と発言している

介護サービス事業の「生産性向上」とは

ここでは介護サービスの生産性向上がなぜ必要なのか、介護サービスの生産性向上は何を目標としているのかを確認しておく。

「日本は超高齢者急増時代を迎える。85歳以上の人口は、2035年に1000人を超えるまで、急速な増加を続けていく。‥‥年齢階層が上がるにつれて要介護発生率が加速度的に高くなる,

加齢の影響は防ぎえない。よって、85歳以上人口急増により、要介護者が著しく増える近未来を想定すべきである」※2

しかし一方で、介護人材不足が深刻化している。このままでは、今後も増え続ける介護ニーズに対応していくことはできないことは確かである。持続可能な介護システムを構築するためには、「生産性の向上」という言葉を使うかどうかは別として、業務の効率化や改善が現場から見ても不可欠な要請であることは間違いない。

では、介護サービス事業の生産性向上とは何かを厚生労働省老健局「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン改訂版」でみておく。

「本ガイドラインでは、『一人でも多くの利用者に質の高いケアを届ける』という介護現場の価値を重視し、介護サービスの生産性向上を『介護の価値を高めること』と定義しています。」さらにその意義として「人材育成とチームケアの質の向上、そして情報共有の効率化です」「具体的には、日常業務の中にあるムリ・ムダ・ムラを見つけ解消していく一連の取り組みです。」としている

「生産性の向上」は「介護現場にはなじまない」という危惧は

ただこうした「介護サービス事業の生産性向上」への取り組みと時を合わせて、運営基準で定められている、1人の管理者が複数の事業所を管理できるようにする。また、有資格者の常勤・専任の配置要件を緩和する等、政府の規制改革推進会議の意見を受けた人員基準の緩和も検討されている。こうした動きは、生産性の向上の名のもとに、介護現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)により安易な人の削減が行われるのではないか。あるいは、経済的効率化を目指す中で、いわゆるムリ・ムダ・ムラの削減は、介護現場における採算の合わないものを排除していくのではないかという、現場から見た危惧もある。

 介護保険給付費分科会での「生産性向上」という言葉の使用に対する意見は、こうした生産性向上の名のもとに起こりうる負の側面を言外に述べているのではないであろうか。

 いずれにしても、こうした業務の改善、「生産性の向上」は避けて通れない課題であるとともに、現場の中でしっかり議論されるなかで初めて可能になるのであって、厚労省の上位下達だけでは決してうまくいかない。今後介護現場においてもこの問題にきちんと向き合わなければならないであろう。

※1「介護ニュース」2023年5月26日

※2厚生労働省老健局「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン改訂版」

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