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一人暮らし高齢女性の貧困

厚生労働省が7月4日に発表した国民生活基礎調査によると、高齢の単身世帯は873万世帯(2022年6月時点)と過去最多を更新した。2007年の432万6000世帯から15年間で倍増したことになる。性別を見ると、女性が64.1%を占めている。さらに、年齢が上がるほど、女性の割合が大きくなり、85歳以上になると7割が女性です。これから迎える高齢社会の課題は、単身世帯の高齢女性、いわゆる「おひとりさま」の問題と言っても過言ではない。

国民経済基礎調査には貧困率というデータが示されている。阿部彩※1は厚労省が公表している2019年の国民経済基礎調査をもとに、独自にデータを男女別や、家族タイプ別に推計し直している。それによると、貧困率は、女性、男性も、高齢期には増加していくが、特に65歳以上の高齢期の一人暮らしの女性の貧困率は46.2%です。2人に1人が貧困となっており、これは母子世帯に次いで高い比率となっている。

ではなぜ 高齢期の一人暮らしの女性の貧困が生み出されてくるのか。高齢期の生活を支える収入はまず年金にある。先の国民生活基礎調査によれば高齢者世帯の62.8%が「公的年金・恩給」で生活しており、「公的年金・恩給の総所得にしめる割合が100%」の世帯が44%となっている。常識的に考えても年金の問題が大きいと考えられる。

高齢単身女性の場合、基礎年金のみの受給者が多いと言われている。夫婦で自営業等で生活してきたが高齢になり夫と死別した高齢女性。厚生年金に加入することなくパート等で働いてきた未婚の高齢女性がこうした高齢女性となる。基礎年金は仮に満額受給できた場合66,250 円(令和5年度の新規裁定者の年金額)となっている。しかし実際の受給金額は、65歳から受給を開始した場合は、5万数千円となっている。しかしも65歳より前に受け取る「繰上げ受給」を選択した人もあり、この場合はさらに低くい年金額となっている。この年金額から「介護保険料」「国民健康保険料(税)」、75歳以上になると「後期高齢者医療保険料」、年金に応じた「所得税額」および「復興特別所得税額」、「個人住民税」が天引きされていくのである。実際の受取額はもっと少ないのが現実である。また、厚生年金・共済年金を受給している女性でも、現役時代の男女間の賃金格差や出産や育児でキャリアが中断されることによる就労期間の短さなどを反映して、女性の年金水準は男性よりも低くなっている。

現在の単身高齢女性の年金水準の低さは、日本の年金制度が「働く夫と専業主婦」というモデルにもとづき設計されており、今日でも年金制度は男性が働き、女性は専業主婦という前提からなかなか抜け出せていない。今日の公的年金制度は、高齢女性の貧困を生み出す大きな原因となっており、高齢化に伴い「おひとりさま」と言われる単身高齢女性が大きな比率を占めるような社会を迎える中で深刻な社会的課題となっている。

これまで高齢単身女性の貧困を見てきたが、介護保険はこうした人たちに対しても、介護保険の利用料を原則2割にしようとしている。利用料が2割になるということは、現在の利用料が倍になるということである。わずか数万円の年金で暮らしている高齢の女性たちにとってこの負担増は耐え難いものであり、そこでは介護保険の利用をひかえたり、あきらめざるを得ないこととなることは容易に想像できる。

※1阿部彩

首都大学東京(現東京都立大学)人文社会学部人間社会学科教授。同年に子ども・若者貧困研究センターを立ち上げる。専門は、貧困、社会的排除、公的扶助。著書に、『子どもの貧困』『子どもの貧困II』(岩波書店)、『子どもの貧困と食格差』(共著、大月書店)など。

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