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ケアマネのつぶやき

生活支援(家事)の課題とは

介護保険が始まって以来、ヘルパーの生活支援(家事援助)は一貫して継子(ままこ)扱いされてきた。介護保険のスタートの議論で、ヘルパーの生活支援サービスは、単身者や家族が就労している等の条件が付けられた。つまり家事は家族がやればいいので、それができない単身者等に限定するというものである。

介護保険サービスの訪問介護は身体介護と生活援助に区分されており、それぞれの介護報酬が算定される。生活援助とは、調理、掃除等といった家事の支援のことを指すが、これらの生活支援は身体介護より低い報酬となっている。ここには、身体介護は専門職としての介護であり、生活支援は主婦ならだれでも行えるもの、といった考え方が反映されている。

さらに、平成30年より国は「生活援助中心型サービスについては必要以上のサービス提供を招きやすい構造的な課題がある」という理由で「訪問介護における生活援助中心型サービスについて、通常の利用状況からかけ離れた利用回数となっているケアプランについては市町村に届け出をしなければならないということになった。要は、ヘルパーの生活支援を必要以上に使いすぎているから制限しようということである。

また国は「単身世帯等が増加し、支援を必要とする軽度の高齢者が増加する中、生活支援の必要性が増加。 ボランティア、NPO、民間企業、協同組合等の多様な主体が生活支援・介護予防サービスを提供することが 必要」であるとして、生活支援事業を全国的に推進している。その中で国の考えているのは「簡単な家事」は介護保険のサービスではなく市民のボランティアや民間のサービスに担ってもらおうということである。

こうして生活支援(家事)は、介護保険の訪問介護の一つのサービスに位置付けられながらも、だれにでもできる家庭の主婦の仕事、非専門的な仕事として軽んじられる傾向をもちつつ、介護保険の中での存在意味を危うくしながら、今日に至っている。

2021年6月、国際労働機関(ILO)は『家事労働者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を現実のものに:2011年の家事労働者条約(第189号)採択後10年間の歩みと展望)』を発表した。

この「家事労働者条約」は2011年国連において採択され、その中身を簡単に述べると以下のようなものである。

労働・社会保障法の適用対象外になることが多い家事労働者を労働者と認定し、その労働条件改善を目指して初めて採択された歴史的な国際基準。家事労働者は他の労働者と同じ基本的な労働者の権利を有するべきとして、安全で健康的な作業環境の権利、一般の労働者と等しい労働時間、最低でも連続24時間の週休、現物払いの制限、雇用条件に関する情報の明示、結社の自由や団体交渉権といった就労に係わる基本的な権利及び原則の尊重・促進・実現などを規定している。残念ながら日本はこの条約に批准していない。

先の報告書によれば採択後10年たった今、法的な保護には一定の進歩がみられたと評価している。しかし、一方で、現在も法的適用から除外されているか、部分的に保護されているものの十分な権利を享受できていない家事労働者の存在を指摘し、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現には至っていないとILOは結論付けている。その上で、家事労働者のフォーマル化(インフォーマル就業からフォーマル就業への移行)がディーセント・ワークの実現のための指標となると述べている。要は、家事労働は「働きがいのある人間らしい仕事(職業)」として社会的に承認される発展途上にあるということなのであろう。

さて上記の報告書を踏まえ、再び現場のヘルパーの生活支援について考えてみる。職場は一般家庭であるため、他者の目が届きにくく、暴力やハラスメント、労働安全衛生に関する規則が遵守されないリスクが高く、物理的、心理的な面で負担の大きい職業といえる。そこで働くヘルパーの多くは登録ヘルパーと言われる人たちである。雇用されている事業所によって労働条件は様々であるが、共通するのは他職種に比べ低い賃金、社会保障にカバーされていないヘルパーも多数働いている。国際労働機関(ILO)が指摘する「十分な権利を享受できていない家事労働者の存在」ともいうことができる。

その業務内容、その専門性ついてもいくつかの課題がある。「誰が行ってもいい」「簡単な家事」はヘルパーでなくボランティアでもいいという考え方がある。一般的にゴミ出し、買い物等がそれらとして言われている。「簡単な家事」という以上そうでない専門職として行う必要のある家事があるということになる。一体その線引きはどこにあるのか。ひいては生活支援(家事労働)の専門性とは何かという問いに対し、現場は実践の中でその答えを発信しなければならない。

また「身体介護と生活援助の一元化」が必要という意見もある。

「日本介護クラフトユニオン」(NCCU)はかって厚生労働大臣に宛てて提出した要望書の中で、介護報酬の引き上げや簡素化などに加え、「生活する上での一連の流れであり、切り離してサービスを行うことは困難だ」として、身体介護と生活援助のサービスの一元化を求めている。身体介護と生活援助の一元化については、「介護のあるべき姿である、QOL(生活の質)を向上させるためにも、一元的にサービスを行うことは重要であり、ひいては、生産性の向上や介護人材不足の解消にもつながる」などと主張し、サービスの一本化を要請している。

問われているのは、ヘルパーの仕事(とりわけ生活支援)をその業務内容も含めインフォーマル就業からフォーマル就業として確立することが、命と暮らしを守るエッセンシャルワーカーとしての「働きがいのある人間らしい仕事(職業)」の実現につながるのではないかと考える。

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