1. HOME
  2. ブログ
  3. ケアマネのつぶやき
  4. 介護現場の生産性の向上

つぶやき

つぶやき

ケアマネのつぶやき

介護現場の生産性の向上

―令和6年度介護報酬改定をめぐって―

令和6年度の介護報酬改定のほぼ全容が明らかにされた。今月末には交付される見通しである。今回の改定により4月から、介護保険利用に際しての細かいところがたくさん変ることになるのであるが、今回の改定で最も大きな特徴が「介護現場の生産性の向上」というテーマであったと私は考えている。改定案では「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」と表現されているが、「生産性」という言葉に対する批判的な意見もあるなかでの厚労省の苦心した表現なのであろう。

ここでは介護における生産性の向上、効率化ということを考えてみる。その背景には、介護現場での人材確保がますます難しくなる中で、今後もサービスの質と量を維持していかねばならないという事情がある。一方で社会の中でDX(デジタルトランスフォーメーション)といいデジタル技術を使って、人手のかかっていたサービスを自動化したり作業を効率化したりする流れが大きく進んでいる。こうした中で、介護現場でデジタル機器等を使い事業の効率化を進め、生産性を高めようというものである。

 では具体的に今回の改定でどのような改正が示されたのか検証してみよう。「介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用促進」として、こうした機器を導入しその評価を行い、効果を示すデータを示すことを条件に、そうした事業所に新たな加算をつける。また、介護ロボット等の見守り機器を導入した特定施設や介護老人保健施設、認知症グループホームにおける人員配置基準を柔軟化し、少ない人員での運営を認める。その他、薬剤師によるオンラインでの服薬指導を認める。ケアマネジャーに対してはテレビ電話等の情報通信機器を利用しモニタリングを可能にするといった改定が示されている。

さらに、厚労省はこうした介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用を行う施設系の事業所に「利用者の安全性並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置を義務付ける」としている。

こうした介護ロボットやICT等のテクノロジーが果たして介護現場どの程度有効なものになるかはまだ未知数であるといっていい。介護の基本は人間と人間のかかわりの中での営みである。そのうちの一部の見守り等それに代わりうるものはあるであろうし、介護そのものではなくそれに伴う記録や連絡といった周辺業務はそうした技術の利用可能性は高いといえる。ただし、製造業等の工場における技術革新と異なり、そこでのデジタル化はおのずから限界があると考えるべきであろう。また、こうした技術や機器の利用にはそれに伴うコストがかかるのを忘れてはならない。当初は補助金等を活用して導入できたとしても、長い面で費用対効果の面から見て生産性の向上につながるか、まだまだ先は見えていないと考える。

 デジタル機器等の活用による生産性の向上、効率化の推進は、先の文章の利用者の「安全性並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する」という範囲内では有効な方策になる。しかし介護保険の市場化の流れの中で、安易な人減らしや介護の質の低下につながる危険性を指摘しておかなければならない。生産性の向上、効率化という課題は介護現場にとって両刃の剣なのである。そうした意味で、今回厚労省が義務付けた委員会の役割は極めて重要であると考えている。生産性の向上、効率化を現場レベルで検証していくことは今後極めて重要であり、この委員会が実質的に機能することが大切であると考えている。

 どちらにしても、介護現場への「生産性と効率化」いう概念の導入と、介護現場がデジタル機器メーカーの格好の市場となっていくという二重の意味で、今回の改定が介護保険制度の市場化(新自由主義的傾向)への傾向を一層強めるものとなることは、介護保険制度を左右する大きな流れの中で銘記さておかねばならない。

関連記事