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介護保険制度

介護保険をめぐる三つの潮流

 介護保険が誕生して今年の4月で24年目となる。介護保険は3年に一回見直しが行われることになっているので、この4月で8回目の改定が行われることになる。当初からケアマネジャーとして介護保険の現場でかかわってきた者として、いろんな感慨もあるし同時にいろいろと考えることもある。今回は介護保険をめぐる三つの潮流ということで考えてみたい。

 介護保険をめぐって、その変遷の中から見えてくる三つの潮流(勢力とその考え方ということもできる)がある。その一番目は「介護の社会化」という言葉に代表される、これまで家族、とりわけ女性に担われてきた介護を公的責任において、社会の仕組みとして介護保険の実現を推進してきた潮流である。「高齢社会をよくする女性の会」(樋口恵子理事長)や認知症の当事者団体である「認知症の人と家族の会」といった組織に代表される市民や当事者に係る団体等がそれにあたる。2005年の改正で介護保険法に「尊厳の保持」について明記されたのもこうした潮流に位置付けられる。介護保険が始まったころは「公的介護保険」という言葉が使われていたが、今や介護保険は「共助」であるとされ「公的介護保険」という言葉は姿を消し、微妙にその位置を変えている。今日この第一の潮流は、高齢者の増加に伴い増える介護保険財源の対策として、利用者の負担を増やそうと意図する次に述べる潮流に対し、そうした動きを押しとどめる確実な力となっている。

 2番目の潮流が、「家族による介護は日本の美風」という家族主義にもとづく考え方である。これは保守的な勢力によって主張される考え方である。こうした考え方の影響を受けて介護保険はその出発点から家族による介護を前提としている。家族による介護を補完するものとしての介護サービスという介護保険の設計は今でも変わっていない。

この結果、今増加している家族介護が当てにできない一人暮らしの高齢者で要介護5や認知症の重度になった方の在宅生活を支えるのは介護保険では困難である。

日本の高齢者をめぐる状況はかっての家族主義を支えた三世代家族といった家庭は姿を消し、今や単身高齢者世帯が高齢者の多数になっている。にもかかわらず意識としての家族主義は今も一定の影響力をもって再生されている。こうした家族や「家」に対する考え方は頑迷な保守主義者のみではなく、「老いた親の面倒は子供が見るべき」「介護をするのは嫁の仕事」といったように日々の介護現場でも生きている。

 3番目の潮流は、介護保険の中に持ち込まれた市場原理という考え方である。介護保険は社会保険という制度であり、そこには公的な財源や仕組みを持ちつつ、民間の参入を認め、利用者と事業者が自由な契約でサービスを利用することになっている。その意味で介護保険は「準市場」と言はれてきた。

介護保険は原則1割負担である。それが年とともに2割、3割負担の人が生まれてきた。40歳以上の国民が支払う保険料は年々増えている。限度額を超えれば全額は利用者負担となる。介護保険のこれまでの24年間は利用者の負担を拡大してきた歴史でもある。増える負担は「民間の介護保険に入って将来の負担に備えましょう」ということである。市場原理の行きつく先は新自由主義という名の自己責任なのだ。国の政策として進められている事業所規模の拡大とそこでの生産性の向上は市場原理以外の何ものでもない。介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用もデジタル機器メーカーに新たな市場を提供していくこととなる。

 介護保険はこうした潮流により、国家の財政負担を減らし、その分を個人の自己責任として高齢者、個人に負担を担わせるとともに、介護を市場としてみなして資本の利益追求の場として提供することを目指す新自由主義による影響を受けることになる。

こうした三つの潮流がそれぞれのときにより形を変え介護保険に影響を及ぼしてきたと私は考えている。

さてこれから介護保険はどうなるか。当面のターニングポイントになると考えているのは、政府が示している少子化対策の財源確保のための工程案である。そこにはケアプラン有料化や利用者の2・3割負担を増やす等の利用者負担増などの検討、さらに要介護1と2の訪問介護、通所介護を市町村の事業へ移管等が示されており、2027年度の制度改正の前に「結論を出す」としている。

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