客観的データは真実を物語るか
先「のつぶやき」でも、令和6年報酬改定においてに訪問介護の報酬単価の引き下げになったことについてふれたが、この問題はその後も大きな社会問題になっており、各種のマスコミ報道でも深刻な訪問介護事業所の実態が伝えられるに至っている。
厚労省は今回の訪問介護の報酬引き下げの理由を、「2023年度介護事業経営実態調査」で訪問介護事業所の収支差(利益)率が7.8%(22年度決算)と、介護サービス平均(2.4%)より高いことを根拠としている。ところが、同じ厚労省の資料から「訪問介護事業所の約4割が2022年度以降3年連続で赤字であることが明らかになりました。」と赤旗紙で報道されている。さらに多くの識者は、サ高住等の集合住宅や都市部において訪問介護を提供する事業所は、移動時間も少なく報酬単価の高い「身体介護」にシフトし、効率的にサービスを提供いている大手サービス事業所が利益率を引きあげていると指摘している。
東京商工リサーチによると昨年の訪問介護事業者の倒産は過去最多の67件で、その96%が資本金1000万円未満、85%が従業員数10人未満の小規模・零細事業者となっている。さらに厚労省の20、21年度決算でも、月当たり訪問回数が「200回未満」の小規模事業所は赤字であり。赤字事業所の多くは零細・小規事業者とみられる。
高い利益率を上げている大手介護事業所と小規模、零細な事業所との二極化の中で「収支差(利益)率が7.8%」という数字は訪問介護事業所の実態を物語るものではないということである。訪問に片道1時間を要し、生活支援という安い報酬にもかかわらず、地域の高齢者の生活を支えているヘルパーさんの姿は、この数字の中で消し去られてしまう。
権力による恣意的な客観的なデータを、我々はまず疑はなければならない。さもなければ権力の論理に思考を乗っとられることになる。必要なことは、介護の現場によって立ち、そこからの視座を揺るがせないことにあると考えている。