「ケアマネジャーの仕事の範囲はどこまで」 その3
―悩ましい仕事の実態―
先にふれた「業務範囲外と考えられる依頼への対応」という調査のなかで最も多かったのが「緊急性が高く自事業所で対応せざるを得なかった」という回答であったが、こうしたことは現場でもよく遭遇する。ヘルパーさんから「様子がおかしいので」と連絡があれば何をさておいても駆けつけねばならない。急病や骨折が疑われるときは救急車を手配し、家族がいない場合は病院まで同行する、もとめられれば入院に必要な最低限の手続きもしなければならない。ヘルパーが訪問したけど利用者が家にいない。徘徊が疑われると、まずケアマネジャーは日頃の会話の中から仕入れた情報をもとに捜索を開始する。こうした緊急に対応を求められる場合は「ケアマネジャーの仕事の範囲は?」などと言っている場合ではないのであるが、現場ではこうした緊急対応を求められることは少なくない。
「緊急性は高くないが他に対応できる人がいなかったため」ケアマネジャーが対応せざるを得なかったといったこともよくある。家族がいれば家族が当然対応してもらうのであるが、そうでない場合はケアマネジャーとして、ほっては置けないことが多々ある。市町村や関係機関等への各種申請代理、入院に伴う着替えや必要物品の手配を求められることもある。かかりつけ医との対応や受診の段取り等が必要な場合もある。
利用者の金銭問題や本人の意思決定が困難な場合もとりあえずケアマネが対応し動かねばならない。こうした場合、根本的な解決のために後見制度等に繫ぐことになるのであるが、とりあえず日々の生活は続いていくのでケアマネジャーが対応しなければならい。やむを得ない場合、一時的に利用者の金銭管理を行わざるを得ないことだってある。ケアマネジャーは万能ではないから必要な機関や制度に繫ぐために働くが、とりあえずほっておけないことがあるのだ。
必要な支援機関や制度、サービスに繫ぐのがケアマネジャーの仕事であるとはいえ、そこには必ず制度の隙間や誰にも頼めないようなモノやことが生活の中では必ず起きてくる。それが利用者の生活に必要なことであればケアマネジャーがそれを担わなければならない現実もある。
悩ましいのは家族間の調整である。家族にはそれぞれの歴史がある。その中で培ってきた関係性もある。介護が必要になった場合、それは家族の間の関係の新たな調整が必要となる。これがうまく機能すると問題はないが必ずしもそうでない場合もある。長年の家族の間での確執を抱えてきた家族が、親の介護に直面した時ことは簡単に進まない。そうするとケアマネジャーは要介護状態の利用者の介護をめぐって家族の間で右往左往することとなる。
つまり、利用者やその家族をめぐる状態は実に多様性に富んでおり、その利用者と家族の支援のあり方も様々なものとなる。そこでは「ケアマネジャーの仕事はここまでです」などとは言っておれない。ケアマネジャーの支援の範囲は、利用者の数だけあると言ってもいい。そうした意味で、明確にケアマネジャーの仕事の範囲を決めることは不可能なのかもしれないと思う。
しかし、先に示した調査の中でも「利用者や家族から強い要望があり、ケアマネジャーが対応せざるを得なかったため」「医療機関等他の機関からの要請があったため」といった回答があったが、これらの中には本来ケアマネジャーの仕事ではないとして断ることができることも含んでいる。医療機関や行政機関の中には、とりあえずケアマネジャーに連絡しておけば何とかなる、と考えているのではないかと思われる節もある。利用者の中には、ヘルパーに薬取りを頼むとお金がいるが、ケアマネジャーは無料で仕事をしてくれるから、と言ってはばからない利用者がいないわけではない。ケアマネジャーは「何でも屋の御用聞き」ではないのである。利用者との関係は専門的援助関係でありそうした視点からケアマネジャーは判断することが必要となる。利用者の生活全般にかかわらざるを得ないその仕事には、必然的に「何でも屋」にならざるを得ない状況が潜んでいることをケアマネジャー自身が自覚しておく必要がある。そして肝心な仕事と「何でも屋」との区別、判断を見失ってしまうと、それはプロの仕事師としてのケアマネジャーの存在を危うくすることにもなる。