身寄りのない高齢者の支援
「ケアマネジャーの仕事の範囲はどこまでか」でもふれたように、身寄りのない高齢者の支援はケアマネジャーにとって、その支援が単にケアにとどまらないという意味において、困難な支援を求められる仕事である。
そこで、身寄りのない高齢者の支援に求められるものにはどのようなものがあるか考えてみる。一つは身元保証に係る課題である。入院や入所に際して求められる連帯保証や入院手続きの代行はケアマネジャーとしてよく遭遇することである。新しい住まいを求めるにも保証人がなくてはかなわない。さらに医療の面で難しいのは認知症の利用者の医療に関する意思決定へのかかわりといった問題がある。
第二には、利用者の死後にかかわる問題である。葬儀、火葬手続きをだれが行うのか。さらに納骨やお墓の問題にまで至ることもある。親類、縁者といったつながりの比較的強い田舎でも、葬儀の手配まで経験したというケアマネジャーも決して少なくはない。各種費用の清算や家財道具や遺品の整理まで誰かがかかわらなければならない。
第三には、お金、財産の問題もある。現金や預貯金の管理は本人ができるうちはいいが、入院や認知症その他何らかの理由でそれが難しくなった時、それを誰が行うのかは悩ましい問題である。とりあえずケアマネジャーが預からざるを得ないことはあっても、いつまでもそうしてはいられない。
第四にあげられるのが日常生活の中で生じる諸々の生活支援である。もちろん介護認定を受ければそれなりの生活支援を受けることは可能である。しかし介護保険が身寄りのない高齢者の日々の生活から生じる問題のすべてをカバーすることは困難である。
もちろんこうした課題に対して、成年後見制度や日常生活自立支援事業という制度が用意されているが、手続きが煩雑であったり、利用に際しての制限があったりして十分にそうした現実に対応されているわけではない。また民間の「高齢者等終身サポート事業」と言われるビジネスが全国的に広がっている。しかし一方でこのビジネスは高額な費用を求められたり、様々なトラブルを引き起し、訴訟となっているケースもある。そのため、今年4月に内閣府孤独・孤立対策推進室より「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(案)が発表されている。このガイドラインにより安心なサービスが提供されるようになればいいのであるが。
さらに、厚生労働省は 身寄りのない高齢者の問題に対して今年度、二つのモデル事業を始めるとしている。「一つは、市町村や社会福祉協議会などに相談窓口を設け、窓口に『コーディネーター』を配置するもの。日常の困りごと、相続や遺言作成といった終活、死後の遺品整理など、様々な相談に乗り本人の状況やニーズに応じた支援プランを作る。配食や買い物支援といった市町村によるサービスのほか、法律相談や終活支援を担う弁護士などの専門職、葬儀・納骨や遺品整理を委任できる業者などとつなぎ、契約手続きを支援する。
コーディネーターは高齢者本人が亡くなるまで継続的にフォローし、支援や結んだ契約が適切に実施されているか報告を求め、チェックする。ただ、専門職や業者の少ない地域もある。契約には費用もかかる。このため、もう一つの事業では、市町村の委託、補助を受けた社協などが、介護保険などの手続き代行から金銭管理、緊急連絡先としての受託、死後対応などをパッケージで提供する。国による補助(上限500万円)で少額でも利用できるようにし、市町村が業務をチェックすることで、質の担保もめざす。 厚労省は今後、コーディネーター役にはどんな人材が求められるのかなどを検証し、将来的な制度化をめざす。」(以上朝日新聞デジタル2024年5月6日)と報じられている。まだこのコーディネーターの仕事が詳しく明らかにされているわけではないが、ケアマネジャーの仕事とかなり重なり合う部分もありそうである。
かっては家族が行って当然とされてきたことが、身寄りのない高齢者の増加は、社会が代わって対応することを求めている。これが身寄りのない高齢者の問題である。こうした施策が整備されていけばケアマネジャーも少し荷を軽くすることができるのかもしれない。