ヘルパーさんがいない
――問題解決のために――
昨今、介護保険のサービスの中でも最もよく利用されている訪問介護の担い手のヘルパーさんがいないため訪問介護サービスが利用できないといった事態が生じている。この地域の介護事業者の組織(紀南ケアネット)が行った調査でも、山間部や海岸部の一部地域、また日曜日や夜間の時間帯では訪問介護が利用できない実態が報告された。
そんな話をしていると、知人がどの業界も人手不足で大変です、と語っていた。確かに今はどの業界でも人手が足らないという深刻な問題があるようだ。ただし介護保険のヘルパー不足の問題は少し話が違うと考えている。なぜなら、介護保険はその名の通り社会保険なのである。社会保険とは加入者からあらかじめ保険料を支払ってもらい、介護サービスが必要になった時、何らかのサービスが利用できるという国の制度なのである。介護保険法では「国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない。」(介護保険法第5条)と国の責務を定めており。「国民は、共同連帯の理念に基づき」(介護保険法第4条)保険料を払うとされている。ところが保険料を払っていてもサービスが利用できないということでは社会保険の仕組みそのものが崩壊しかねないし、国民から見れば、これを国家的詐欺という指摘も大いに納得できる話である。ところが、現場で訪問介護が使えない現実に直面しているケアマネジャーや訪問介護事業者から見ると、国や地方公共団体(保険者)のこの問題に対する反応はいかにも鈍く現実がどれほどわかっているのだろうかと思われることが多い。
ではこの問題をどのように解決したらいいのかについて考えてみたい。まず根本的には訪問介護の介護報酬を引き上げることである。それによりヘルパーさんに支払われる給料をその仕事に見合ったものに引き上げることが可能となる。介護保険の世界は国の定める公定価格としての介護報酬によってそこに働く職員の賃金も規定されていく。民間の企業のように価格に転嫁して、というわけにはいかないのである。
さらにこの世界の低賃金の背景にはケアにかかわる人たちの仕事への社会的な評価の低さという問題が横たわっている。コロナ禍の中でエッセンシャルワーカーという言葉が注目された。エッセンシャルワーカーとは生活を送るのに欠かせない仕事に就いている人、具体的には、医療・介護従事者や物流、スーパーの店員等の国民の生活に不可欠な現場で働く人々をさすと言われている。概してこうしたエッセンシャルワーカーと呼ばれる人は低賃金でその社会的評価がひくい。それに比してデビッド・グレーバーがブルシェットジョブ(クソどうでもいい仕事)と呼んだ、必ずしも社会的に必要とはされていない人たちが高給で処遇されているという現代の働き方の仕組みにも光が当てられる必要がるのではないか。
さらに、賃金を上げるだけで解決できるかというとそれほど簡単なものでもない。人口減少、特に生産年齢人口の減少が言われ、とりわけ過疎が深刻化する地域において介護にかかわる人の確保は極めて難しい。地域には介護にかかわらず担い手となる人がいないのである。そこでは外国人や地域外からの人材の確保といった方策も言われているが零細な事業所の多い訪問介護事業所ではこれもまた簡単にいきそうもない。
こうした問題は構造的、社会的に解決されなければならない問題であるが、かといって現実に訪問介護が利用できない地域に住んでいる高齢者がいる。日曜日や夜間の利用ができない利用者がいるといったこの地域の喫緊の解決すべき問題がある。
そこで、現有の地域全体としての介護力をどのように有効に活用するかを考える必要があると考えている。具体的には事業所の枠を超えて、訪問が困難であると言われている地域や時間帯の利用者の訪問を可能とするシステムを作る必要がある。そのためには個々の事業者と保険者、地域包括支援センター等が力を合わせて可能なシステムを作っていくことが必要であると考える。ただし各事業所の利害を調整しつつ、そうした地域全体でのヘルパーの体制を作ることは全く新しい挑戦であり難しい問題もあると考えられる。しかしその検討をまず始めなければならない。その点では保険者のイニシアティブは不可欠であると考えている。