「トータルケアマネジメント」という提起
―ケアマネジャーの業務範囲をめぐって―
9月20日に厚生労働省の「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」の第4回が開催された。この検討会で議論になっている中の一つに「ケアマネジャーの業務の在り方」「業務範囲について」があげられている。その検討会に提出された資料の中で、業務範囲外と考えるが対応せざるを得なかったケースについて調査結果が示されている。それによると
「緊急性が高く自事業所で対応せざるを得なかった」 72.5%
「緊急性は高くないが他に対応できる人がいなかったため」57.2%
「利用者や家族から強い要望があり、ケアマネジャーが対応せざるを得なかったため」 44.9%
「医療機関等他の機関からの要請があったため」 41.9%
多くのケアマネジャーは、これらのケアマネジャーの業務の範囲ではないと考えられる仕事に直面し、否応なくそうした仕事に向き合わざるを得ない現実を抱えており、それらに対してどのように考え、どう対処すべきかという課題が大きな問題となっているのである。
こうした中で、日本介護支援専門員協会(以下協会)は同上検討会に「利用者の自立した生活の実現と重度化防止に向けた 効果的なケアマネジメントを実現するための意見」を提出した。その中で「トータルケアマネジメント」という考え方を示している。協会の示す「トータルケアマネジメント」とは何か。同意見書の中には次のように説明されている。「自立した生活の実現に向けて介護保険制度の枠にとどまらず日常生活全般にわたる多様な相談を受け、アセスメントにおいても 居住環境や家族関係、地域社会における活動状況など広範囲にも及ぶ課題を分析して、介護保険制度の枠を超えた多様な支援につなげるための仲介や調整などをおこない自立支援・重度化防止を目的としたケアマネジメント」としている。要は介護保険では介護支援専門員呼ばれるケアマネジャーは介護保険の枠にとどまらず「多様な支援」を行っていこうということである。
本来、介護保険の中でケアマネジャーが行う居宅介護支援とケアマネジメントは全く同じものではない。ケアマネジメントという対人援助技術を、社会保険としての介護保険という制度の枠内で行うものを居宅介護支援と言っているのである。ところが、現場でまともに利用者と向き合い必要な支援を展開しようとすれば、おのずと介護保険という枠を超えて働かざるを得ないのである。つまり対人援助技術としてのケアマネジメントと社会保険という制度の中で行われる居宅介護支援の違いは、必然的にケアマネジャーが働いても評価されない仕事(シャドーワーク)を生み出さざるを得ないのである。これは介護保険の初めから識者によって指摘されていたものであり、構造的な問題である。
そうした意味で、今回協会の「トータルケアマネジメント」として介護保険の枠を超えて「多様な支援」を行っていこうという提起は、日本の高齢者分野のケアマネジメントの成熟を意味するものであり、積極的な提案であると考えている。
そして協会は同意見書の中で「トータルケアマネジメント」の推進のためには「介護保険の枠を超えた社会資源の創設や再構築」と、その財源について「介護給付費の枠にとどまらず幅広い観点から検討していく事」としている。特に介護保険の枠の中では評価されないケアマネジメントをどのように考え、その財源を確保していくかはもう少し論議が必要であろう。
この点について、協会はかって令和3年4月 30 日「 居宅介護支援費の利用者負担導入論についての意見表明」の中で次のように主張している。
「本来は居宅介護支援の対象範囲とならない住民からの相談対応や、役所や公的機関での 介護保険以外の手続きや申請代行など、本来は公的機関が担うべき役割を民間の居宅介護支援事業所が対応しています。この業務は居宅介護支援における通常の業務として認識している保険者も少なくない 状況です。また、災害発生時の介護支援専門員の果たしてきた役割もまた利用者の生命や生活を守るために、介護支援専門員の利用者支援という崇高な意識に支えられて行われたものですが、これは居宅介護支援という業務の範囲を超えたものです。 さらに、高齢者虐待の発見や通報にも介護支援専門員は大きく貢献しており、このような状況から、 既に居宅介護支援は単なる介護保険の1つのサービスとして捉えるものではなく、地域にとって必要不可欠な社会インフラとして存在し、保険者の業務の一旦を担っている存在として理解すべきです」
一部やや意味不明な部分もあるが、こうした協会の主張からすると、その財源は介護給付ではなく高齢者に関する一般財源から手当てすべきということになるようである。
この点について若干の私の意見を述べる。例えば、ケアマネジャーの仕事の中で幅広い支援を求められるのが要介護の独居高齢者の支援である。病院への付き添いであったり、役所や様々な届出の代行、はたまた金銭の管理から死亡後の手配まで諸々の支援をケアマネジャーが行わなければならない場合が少なくない。こうした場合、介護保険の居宅介護支援費の独居高齢者加算という介護保険の枠の中での解決の方向が当面考えられる。しかし、基本的には私としては、この点については社会保険としての介護保険の中で考えるのは限界があるように思われる。それより高齢者施策の中でのケアマネジャーの役割りを位置づけ、それを担うものとして公費から措置されるのがいいと考えている。いずれにしても今後議論が必要な課題ではある。