ケアマネジメントと家族支援
――家族をめぐる規範意識――
介護保険法の目的は利用者の自立支援ということがもっぱら強調されてきた。ところが近年、ケアマネジメントの中で、家族介護者(ケアラー)支援が重要であると言われることが多くなっている。
ところが、高齢者の介護についての支援に係るとき、家族に関する規範意識の強さ、その影響に直面することがある。特に家族はその規模においても役割においても大きく変化している。にもかかわらず家族に係る規範意識だけは残っているところに問題をより複雑に深刻にしているように思われる。
家庭介護の現場では、介護者は「頑張らなくてはならない」という意識が強く働きすぎる傾向がある。その背景にあるのは「介護を頑張ることが家族としての愛情表現である」という思い込みや、「よき介護者でなくてはならない」という周囲からのプレッシャーがあるのではないか。介護離職という問題もその延長にあるように思える。また、こうした思いが強すぎると、介護を家族の中で抱え込んで、困難を抱えても助けてと言えない家族介護や、場合によっては共依存と言ってもいいようなケースに直面することもある。そこにあるのは「親孝行」「介護は家族で」という意識である。
「親を看て当たり前」「介護は嫁の仕事」と考えている高齢者は少なくない。この思いは子供たちにとっても「親孝行」として意識の中にも根付いている。しかし、早くから別の地に居を構え一家を営んできた子供とって、親が介護が必要になった時、その思いと現実に立ち止まることは多い。ケアマネジャーが双方の意向を聞きながら調整を図るが、介護保険の中で解決できることは限られている。「親孝行」という思いと暮らしの現実とのはざまで揺れる家族は少なくない。
住み慣れたこの家で、地域で暮らし続けたいとの思いは多くの高齢者の切なる願いである。一人になって暮らしに不安を抱えることが多くなった老親に、遠方に住む子供たちが求めるのはともかく「安全に」と「地域の人たちにご迷惑をかけられない」ということである。そこでケアマネジャーに言われることは「施設を探して」ということになる。これもまた子供としての「親孝行」な言い分である。こうした子供たちの要望に対してケアマネジャーはしばし思考停止になる。なぜなら「この家で最期まで」という高齢者の思いを何度も聞いてきたから。しかし、その次に施設探しに動かざるを得ないと判断する。その時、高齢者は「子供に迷惑をかけられない」「老いては子に従うべき」として自らの思いを飲み込む。ここでもまた家族という規範意識が強く働く。
普段は意識することもないが、家族の中に介護という問題が降りかかったとき、改めて家族とは、その関係はどうあるべきかが問はれる。家族に関する規範意識もその家族によってさまざまな濃淡を伴うものではあるが、それが被介護者にとって与える影響は大きいと思われる。
次回はこうした家族に関する意識のもかかわらず、変わりゆく家族の実態にふれてみたい。