ケアマネジメントと家族支援ーⅡ
――変わりゆく家族――
「いつかお父さんみたいに大きな背中で
いつかお母さんみたいに静かなやさしさで
いつかお爺ちゃんみたいに無口な強さで
いつかおばあちゃんみたいにかわいい笑顔で
あなたとなら生きていける そんな二人になろうよ
いつかあなたの笑顔によく似た男の子と
いつか私と同じ泣き虫な女の子と
どんなことも超えていける 家族になろうよ」
これは歌手福山雅治の「家族になろうよ」の歌詞である。この歌詞を見るだけでその曲が浮かんでくる人も少なくない有名な曲である。多くの若い人たちにとって、そのような家族は今も魅力的な姿として心に響くからヒットしたのだろう。
しかし現実の家族はそれほど甘くも美しくもない。結婚して子供をもうけたものの、離婚して生活に困窮するシングルマザーの姿を見ることは珍しくない。それどころか結婚しない、あるいはできない人も増えている。
データによれば、30歳時点の未婚割合は、女性は1980年当時で11.3%だったものが2020年には40.5%。男性は31.1%から50.4%という数字になっている。また、1990年以降、男性の50歳時の未婚割合が急上昇している。2020年の50歳時の未婚割合は、女性は17.81%であり、50歳の女性の約6人に1人は結婚経験がない。男性は28.25%となり、50歳の男性の約4人に1人は結婚経験がない。
「国民生活基礎調査」によれば今の日本の世帯類家で一番多いのが「単独世帯」で全世帯の32.9%となっている。三人に一人は一人暮らしというのが今の日本の家族である。若い人たちの未婚化が進み、さらに人生100年時代と言われている中で、いずれは皆一人暮らしの高齢者となる。日本の家族規模はどんどん小さくなっていく。
こんなデータもある。「65歳以上の者のいる世帯」という調査で一番多いのが「夫婦のみの世帯」で32.0%。次いで「単独世帯」が31.7%。三番目が「親と未婚の子のみの世帯」20.2%となっている。注目するのは「親と未婚の子のみの世帯」である。かってパラサイトシングル(学卒後もなお親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者)といわれた若者がいた。今、子供の未婚化、非正規雇用の不安定さを背景に、高齢化する親と同居を続ける子供といった家族が増えている。こうした家族の増加が「8050問題」として社会問題化することとなっている。
かっての男は外で働き妻は家庭を守るといった姿も変わっている。「共働き世帯」は増加傾向にある一方、「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」つまり専業主婦の家族は減少傾向となっており、2021年では、「共働き世帯」は1,177万世帯に対し専業主婦の世帯は458万世帯となり、夫婦のいる世帯全体の23.1 % となっている。ただし女性の働き方に関しては、パートタイム労働(週35時間未満就業)の世帯数は、1985年以降、約200万世帯から約700万世帯へ増加しており、2021年に691万世帯となっている点は注目しておかねばならない。
子供のいる世帯は徐々に減少している。ところが「ひとり親世帯」は1988年から2016 年までの約30年間に102.2万世帯から141.9万世帯へと増加している。そして、2016年の「ひとり親世帯」における母子世帯の割合は、86.8%となっている。
大きく言えば日本の家族はその規模がどんどん縮小しており、またその形も多様化していると言えるようだ。
こうした家族の多様化に関して山田昌弘は次のように述べている。「核家族、事実婚、未婚、離婚、再婚、また子供を持つ持たないなど、家族の在り方は非常に多様化しています。一時点で見ればいろんな家族がいるということになりますが、時間軸でみてみれば、家族に関わるリスクが増えたとも言えるでしょう。」
家族はその規模を縮小し多様化していることを見てきたがそれだけにとどまらない、家族の機能も変わってきている。家族の重要な子供を育てるという機能に関していうなら、子供の教育は早くから公教育へその機能を移しているが、今やそれでは足らない分、塾は必須となっている。さらに「共働き世帯」の増加とともに、保育というかたちで子育てという家族の機能の一部を保育所という社会によって用意された場所に譲り渡すことになっている。さらに近年学童保育も子育ての重要な役割を果たすに至っている。家族の中に病気や高齢者の介護が必要になったときそれは家族の手によって担われてきた。今や介護保険という社会の制度の中で高齢者の介護の一部が担われることとなっている。家事もまたしかりである。スーパーやコンビニに並ぶ総菜は商品として提供され、包丁もまな板もない家族は決して珍しくなくなっている。そうした意味で、ウーバーイーツはその最先端かもしれない。つまりこれまで家族が担ってきた子育てや、介護、家事といって機能が社会の手(社会的サービス)によって担われる部分が増えている。こうした家族内労働の社会化は裏返して言えば家族機能の弱体化につながる危うさをもっているともいえる。そして家族機能の弱体化は、その結果として「機能不全家庭」に象徴されるように、新しい様々な家族の問題を生み出す背景になっている。
こうした家族の変化に、ケアマネジメントにおける家族支援の必要性と難しさがあると考えられる。同時に「お父さんは頼もしい一家の大黒柱、お母さんは家庭にあって愛情をこめて家族の世話をする、二人か三人のかわいい子供がいて元気に学校に通っている」といった「近代家族」がイメージした家族像は今も家族規範として機能している。