マイナンバーカード普及のための「マイナ保険証」は現場に何をもたらすのか
国は、来年秋に現行の健康保険証からマイナ保険証(健康保険証の機能をもたせたマイナンバーカード)に一本化するとしている。マイナンバーカードを持つかどうかは任意である。ところが保険証と一本化するということはマイナンバーカードの実質的な強制に他ならないことになる。
そのため、健康保険証とマイナンバーカードが一体化したマイナ保険証を持たない人たちに「資格確認書」を発行する方針だ。ただし、確認書は更新が可能だが、有効期間は最長一年に限定される。さらに窓口負担には上乗せ価格が設けられるという。カードを持たないだけで不利益を被ることは、公平を旨とする行政のやり方としては許されないと考える。
何としてもマイナンバーカードを普及したい国は、施設入所者や寝たきりで外出困難な高齢者等でもマイナカードを取得できるようにということで、本人が役所に出向かなくてもマイナカードを取得できるよう、代理交付の取り扱いを緩和し、施設長やケアマネジャーが本人に代わって行うことを可能とする。その場合、申請や受け取りに対して助成する方針を示したのである。なんと親切なことであろうか。またケアマネジャーに新しい仕事を増やしてくれるのであるが、果たしてこれがケアマネの本来業務であろうかと疑う。どうしても行政がやりたいのであれば、行政職員が施設や寝たきりの高齢者のところに出向いてやっていただきたいものである。「介護職には介護の仕事をしてもらいたい。事務手続きは行政が行うべき」という「認知症の人と家族の会」の代表がヒアリングの席で述べたという意見は正鵠を得ている。
一方医療関係者の中でもこのマイナ保険証についていろんな意見が出ていると聞く。全国保険医団体連合会の昨年秋の調査では、導入した医療機関の約四割で不具合やトラブルが発生している。災害などで停電やインターネット接続が不調になれば、稼働しない不安もあり、保険証を残すべきだという声は根強い。この機会に廃業を検討している診療所もあると聞いている。現にこの地域でも廃業を決めた診療所もある。
さらにこの話は介護保険の被保険者証にもつながる。2月27日の社会保障審議会介護保険部会に、厚労省は介護保険の被保険者証をマイナンバーカードで代替できるようにする方針を提案し、概ね了解されたと報道されている。認知症の高齢者がこの「マイナ保険証」なるものの管理が可能なのであろうか。認定更新時にはケアマネが保険証を預かり申請代行をすることが多いが、マイナンバーカードと一体化したこの保険証を預かるということができるのであろうか。心配することはたくさんある。さらに、実際に運用が始まれば、介護事業所もカードリーダーの導入など必要な負担と対応を求められる可能性もある。
国はこのマイナンバーカードの普及のため、2023年度予算では17億円という税金を費やしている。国や行政機関とってマイナンバーカードの普及はメリットがあるのであろうが、今の健康保険証や介護保険証が現場で使い勝手が悪いといった問題があるのではない。莫大な税金を使って、そのしわ寄せを国民や医療、介護事業所に押し付けてまで、マイナ保険証に変える必要があるのか。「国民の生命と健康を守ることは政府の最優先の責務であり、カード普及のために保険証を使うとは本末転倒だ。カードの取得は任意ではないのか、という質問に政府は正面から向き合うきだ。」という中日新聞の社説「マイナ保険証 給付の平等性を損なう」(2023.3.6)は納得のいく主張である。