和田欣二君のメッセージ
和田欣二君のメッセージ
中田重顕
冒頭の写真は、冨田啓暢氏が、もう三十年近くも前、社会福祉協議会の機関誌に掲載したものである。被写体は和田欣二君と、阪本浩子さん。阪本さんは阿田和の人で、僕が講演するとき必ず朗読してもらっている人。和田君は、一種一級の重い障がいをお持ちだが、いささかも屈せず戦って生きてきた人。二人とも僕にとっては大事な友人であり、戦友である。
この写真で阪本さんが和田君に話しかけている目線が素晴らしく正しいと思う。見上げるのでもなく、見下ろすのでもなく対等な目の高さで話しかける。撮した方も人権感覚正しいな(笑)。
僕は人権問題等で講演をさせて貰うとき、この写真を必ず使うようにしている。
僕はもちろん、人権問題に何の知識も持ち合わせない。あえていえば、自分も二種五級という障害者手帳をもっているし、中学生のとき入園していた肢体不自由児養護施設県立草の実学園での体験。谷川充人君や和田欣二君たちと力を合わせて結成した障がい者サークル「雑草の広場」を通じて、障がいをもった仲間とともに生きてきた。いつも思い、願っていたのは、障がいがあろうとなかろうと誰もが同じ人間なのだと言うこと。
僕等はすでに年老いてもう何の力もない。しかし、若い人たちに障がい者の生き方を伝えることで、誰もが公平対等で明るい世をつくるのにほんの少しでも役立てればと、厚かましくも中学校の人権教育の場に呼んで頂いている。いつも阪本浩子さんに一緒に行って貰って情感あふれる朗読をしていただきながら、何とか下手な講話をさせていただいている。
令和五年は紀宝町立矢淵中学校に呼んでいただいた。もちろん冒頭のこの写真をパワーポイントに取り込んで。
相手をいたわり、尊敬する子には何より想像力が大切なことを話してから、和田君が重度の障がいに屈せず、自動車のセールスをして働いてきたこと、息で吹きかけるパソコンに挑戦して見事に自分史を書き上げたことなども紹介した。そして、中学生に対して彼の心からなるメッセージを録音で聞いてもらった。要旨次のような内容である。
生徒のみなさん。ぼくは障がい者に生まれてきましたが、障がい者といえども、まず人間なのだという考えて生きてきました。昔は、障がい者はいっぱんの健康な人と価値はちがうのだという考えがありました。ぼくは障がい者も誰もと、同じ人間なのだという信念にもとずいて色々なことをやってきました。幸い、良き友だち、良き理解者にめぐまれ、仕事らしきものもやってきました。旅行もし、色々な体験もしてきました。今は、よかったなあ、と思っています。
これまで永く生きてきて、ぼくは外見などというのは、一個も人間の価値とは関係ないと思っています。
以下は、矢淵中学校の生徒が書いてくれた感想文の抜粋。
◇障がい者の人はかわいそうや特別だと思っていたけど、わたしたちと同じ人間で、みんな一生懸命生きてるんだなととても尊敬しました。
◇和田さんのお話を聞いているときに聞き取りにくかったけど、字幕を見たらしっかり聞こえて私達に聞かせるために一生懸命伝えようとしてくれたことに涙が溢れてきました。
◇障がい者だから気を使うんじゃなくて、障がいを持っている人も持ってない人もみんな同じというところが印象に残りました。
◇障がいがあったとしても結局は人間ということにはかわりないし、人の外見なども関係ない、ということが印象的でした。障がいをもつ人が特別ではなくみんな平等だということを大切にしたい
◇背の高い人や低い人、外見では判断しない。そして、人間は皆平等なのだと思ってこれから生きていきたいです。そして誰に対しても上から目線じゃなく、同じ目線で話そうと思った。
◇想像力が豊かだったら差別や戦争などがなくなる、と言っていたのが印象に残っています。その話を聞いて、戦争とか差別がなくなってほしいなと思いました。
◇障がい者の方は不自由なこともあるけれど、人は違って当たり前だし、その人の個性というものがあるのでみんな同じ人間で平等であることを改めて認識することができた。パソコンなどで「しょうがいしゃ」と打って当たり前に「障害者」という漢字にしてきた。けれど、今回のお話で障がいは害なんかではない一人の人間であるということをきいて今まで持っていなかったことを得られた。これからは同じ人間だということをもっと意識し、ボランティアにも参加したいなと思った。