貪小失大(とんしょうしつだい)
――受領委任払い制度をめぐって――
以前にこの欄で「受領委任払い制度」をぜひこの地域でも実現して欲しいということを「つぶやいた」全国の多くの市町村でこの「受領委任払い制度」が実施されているにもかかわらず、この地方ではいまだ認められていないのである。
ここで「受領委任払い制度」のことをまず説明しておく。ご存知の方はこの部分は読み飛ばしていただきたい。介護保険での福祉用具購入費及び住宅改修費(介護予防を含む)の支給は、利用者がいったん費用の全額を支払い、その後に申請をして保険給付分(9割)の支払を受けるという、いわゆる「償還払い」を原則としている。 一方、「受領委任払い制度」は、特定福祉用具販売及び住宅改修の利用者の支払を、初めから1割分で済むようにすることで、利用者の一時的な負担を軽減するための制度である。残りの9割分については、利用者の委任に基づき、保険者から受領委任払い取扱事業者に直接支払うことになる。
最近この問題で、紀南ケアネットと紀南介護福祉労働組合が再度保険者に「受領委任払い制度」の実現を要望した。これに対して保険者の回答は「受領委任払いを導入するとこの部分での保険給付が増えるから」と消極的な回答があったと聞く。
果たしてそうであろうか。高齢者の転倒、骨折はその後の生活を一変させ、最悪の場合は寝たきりや入院生活による認知症の進行をもたらすことはよく知られている。結果、医療費や介護費用の増大をもたらすものとなっている。それを福祉用具の利用や住宅改修でこのリスクを少しでも抑えることができれば利用者にとっても、保険者にとってもとても大きな利益をもたらすことになるのではないか。
住宅改修による高齢者の生活に対する影響等に関する研究論文は決して少なくないがその一部を紹介しておこう。小野美奈子等が行った「住宅改修による利用者本人、家族の生活の変化」によれば結論として「本人の介護度の維持・改善に対する住宅改修の効果が示唆されるとともに、住宅改修によって本人家族の生活の質は向上したと評価できた。」(「老年看護」2004年)としている。また横塚恵美子等が行った「介護保険を利用した住宅改修による生活機能への影響」によれば「住宅改修によって、要介護度は有意に改善され、認定調査の『移動』、『排尿』、『日中の生活』、『外出の頻度』も改善を認めた」(「理学療法科学」第25巻第6号)としている。その住宅改修の高齢者の健康維持への有効性を示す文献は多く見出すことができる
受領委任払いを認めることで一時的に介護給付が増えたとしても、だれもが住宅改修を使いやすくすることによって要介護を維持、改善し在宅生活を一日でも長く続けられるとすれば、これほど大きな介護給付費の削減につながるものはないのではないか。
冒頭の「貪小失大」は「小を貪(むさぼ)りて大を失う」と読む。保険者の賢明な判断を切望する。