「ヘルパーさんはいません」
今年で90歳となるAさんは長年一人で畑仕事をこなし、都会に住む子供にその野菜を送ることを楽しみに、熊野の山間で生きてきた。妻を亡くしてからずいぶん経つが、家事から大工仕事まで何でもこなし、地域の人たちからも何かと相談を受けるような人だった。そんなAさんも寄る年波には勝てないのか、家の前の畑には黒いシートをかけ、ひざの痛みに耐える日々が多くなり、なじんできた家事にも困難を感じるようになった。
そんな中、介護認定申請を行い、その結果要支援2という認定結果となった。知り合いに紹介されたケアマネジャーに家事の支援を依頼した。ケアマネジャーから、要支援の人は介護保険の制度では介護予防ということになると説明されたが、90歳のAさんには、自分に必要なのは困っている掃除やゴミ出し、買い物という家事の支援であって、何を今さら介護予防なのかという思いがあった。それはそれとして、ともかく1週間に2回程度はヘルパーさんに来てもらい、生活の手助けをしてほしいと希望した。
しばらくして、ケアマネジャーさんから届いた返事は、「今はヘルパーさんが不足しているし、片道40分もかかる山間の集落まで来てくれるヘルパーさんはいません」という回答だった。Aさんにとって、「この間ずっと払い続けてきた保険料はなんだったのか。こんなことなら払わなければよかったのに」と腹立たしい思いだけが残った。
脳梗塞で入院していいたSさんが退院を間近にして、担当のケアマネジャーに要望したのは「家に帰って、ヘルパーさんに来てもらい、今までのように暮らしたい」ということだった。脳梗塞の後遺症で軽い麻痺は残ったが、ヘルパーさんと市内に住む娘の支援で何とかやっていけるのではとSさんは考えていた。
ケアマネジャーはSさんの言葉通り在宅復帰に向けて娘さんと相談していた。ところが退院の1週間前に状態を確認したところ、2カ月にわたる入院生活の結果、ほとんど自力では歩けないことが判明、これでは今すぐ自宅に帰っての生活は困難と考え、家に帰るまでにショートステイを利用することとなった。
そこでケアマネジャーは考えた、Sさんが在宅で一人暮らしを送るためには娘さんの支援は不可欠だが、娘さんの就労の状態を考えると、毎日最低2回の訪問介護による支援は必要である。デイサービスの利用も考えたが自宅から道路までの階段を考えると頻回な外出は不可能に近いことも。
それからしばらくケアマネジャーの仕事はヘルパー探しに明け暮れることとなった。ケアマネジャーの涙ぐましいと言ってもいい努力の結果、四つの事業所のヘルパーを組み合わせて、朝夕2回の訪問介護が可能となったのは月・水・木・金の四日、火、土は夕方のみ、日曜の訪問は全くめどが立たず、という結果でSさんの在宅生活を開始することとなった。
始まった在宅での生活はSさんの我慢と、娘さんの努力に負うところが大きいのであるが。ある日、たまたま訪問したアマネジャーが見たのは、ベッドから降りた(落ちた?)ままそこで寝ているSさんであった。その時ケマネジャーの脳裏をよぎったのは「このままで在宅での生活は無理なのか・・・」。
高齢者の在宅で暮らし続けたいという願いにこたえ、ケアマネジャーはいろんな知恵を絞る。しかし在宅生活を支える核となるヘルパーがいないという現実は如何ともしがたい。このままでは介護保険の訪問介護というサービスは看板だけのものになりはしないか、危惧される。