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ケアマネのつぶやき

「老後レス社会」を生きる

―――高齢者と就労―――

総務省が今年の敬老の日の前に公表した人口推計によると、65歳以上の高齢者は前年より6万人多い3627万人で過去最多を更新した。総人口に占める割合は29・1%で過去最高。75歳以上は72万人増の1937万人で、対総人口の割合が初めて15%を超えた。

 一方、2021年に働いていた65歳以上の高齢者は、総務省の労働力調査で909万人に達し、前年から6万人増えた。増加は18年連続。65歳以上の就業率は前年と同じ25・1%。65~69歳は50・3%で初めて半数を突破した。

 かって安倍晋三前首相は在任中、「一億総活躍」というスローガンを掲げ、高齢者らの就労を進めるとした。2019年10月4日に召集された臨時国会の所信表明演説で、安倍前首相はこう語っている。

「65歳を超えて働きたい。8割の方がそう願っておられます」「(高齢者の)豊富な経験や知恵は、日本社会の大きな財産です。意欲ある高齢者の皆さんに70歳までの就業機会を確保します」

労働政策研究・研修機構の調査(2015年発表)では、「60代が働いた最も主要な理由」は「経済上の理由」が最も多く、約58.8%。また、2019年度の内閣府の世論調査では、「日頃の生活で悩みや不安を感じている」と回答した人に理由を聞いたところ、「老後の設計」を挙げた人が56.7%(複数回答)で最多であった。

 もちろん、高齢になっても働くことに積極的な意味を見出して働いている人がいる一方

「働かなきゃ食えない」「働きたいじゃなくて、働かざるをえない」という年金だけでは賄いきれない高齢者の厳しい現実があることもまちがいない。

かって老後と言えば「楽隠居」「余生」「悠々自適」「趣味三昧で人生を満喫」などと言われた。今やこの「老後」が無くなったという意味で「老後レス社会」という言葉すらある。この「老後レス社会」を初めて使ったのが朝日新聞特別取材班による、多くの日本人が不安を抱く老後問題の現実を描いた『老後レス社会 死ぬまで働かなければ生活できない時代』である。

同書の帯には「『一億総活躍』過酷な現実と悲惨な未来」という文字がおどる。

「道路工事やビルの建築現場、あるいはショッピングモールで必ず見かけるのが制服に身を包んだ警備員の姿です。炎天下でも雨の中でも、朝から晩まで立ちっぱなし。かなり体を酷使する仕事です。しかし彼らの多くに共通するのは、決して若くないこと。それどころか、高齢者が非常に目立ちます。なぜなのでしょうか。ここに「老後レス社会」のリアルな断面を見ることができます。警備員は、70歳以上の就労が増え続けている職種の1つだからです。」

またこんなデータもある。

2020.2.3 日経ビジネス電子版によれば、日経ビジネス記者が「生涯現役の現実」というテーマで取材した結果を「憧れの『生涯現役』 現実は20分に1度の高齢労災」として次のような現実を紹介している。

「着実に増える『転落』『巻き込まれ』『熱中症』

・休憩室で横になっていたところ、近くにあったリネン用品が積まれていたロールボックスパレットが倒れ、下敷きになり死亡(製造業の60代)

・金属部品加工の作業中、回転中の切削刃に巻き込まれて死亡(製造業の70代)

・事務所の庭木の剪定(せんてい)作業中にバランスを崩し、脚立から地面に墜落して死亡(医療保険業の70代)

・天井クレーンの操作ボタンの調節のため、点検台(地上高7m)で作業していたが、落下して死亡(製造業の60代)

・木製の足場を掛けて作業をしていた際、バランスを崩し地上まで約9m落下し死亡(建設業の60代)

・フォークリフトのカウンターウエート(装置が安定するように設置された重り)の上に上っていたところふらついて後ろ向きに倒れ、地上に転落し死亡(貨物業の70代)

・事業所内の庭の草刈りの作業中、倒れたところを発見される。熱中症によるものと思われる(広告業の80代)

 これらは、この1、2年で東京・大阪で起きた労災死亡事故の一例にすぎない。」

いまや日本は世界のどの国も経験していない超高齢社会を迎えている。「人生百年時代」は今までとは違う、私たちに新しい働き方を求めているのであろう。

為政者の立場から見れば、少子・高齢化と言われ、人口減少が急速に進む日本において、高齢者は社会保障の対象者からその担い手になることが求められている、それが「一億総活躍」社会である。

 高齢になれば、受け取ることができる年金により経済状況は大きく異なる。働くことに対する意思、気力、健康状態も人それぞれに違う。老後レス社会と言っても、高齢者の数だけ、働き方、生き方がある。人間はただ一人の例外もなく老いる以上、老後レス時代とどう向き合うかは、すべての人が自分ごととして考えなければならない。

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