ケアプラン「生活全般の解決すべき課題」はなぜ『○〇したい』と書いてはいけないのか
まずニーズとは何かを明らかにする
ここでは3人の研究者のニーズに関する定義を紹介する。
白澤正和は
「生活課題(ニーズ)は、『生活するうえで困っている状態』と『その状態を解決する(時には維持する)目標・結果』を合わせた二つの側面で構成されます」
(「改定介護支援専門員基本テキスト第2巻p53.55」
佐藤信人は
ニーズは「利用者自身の『現状の事実』と『目標』が隔たっている場合生じます」
(「ケアプラン作成の基本的な考え方」p43)
上野千鶴子は
「ニーズとは、欠乏や不足という意味から来ている。私の現在の状態を、こうあってほしい状態に対する不足ととらえて、そうでない新しい現実をつくり出そうと構想力を持ったときに、初めて自分のニーズが分かり、人は当事者になる。ニーズはあるのではなく、つくられる。ニーズをつくるというのは、もうひとつの社会を構想することである」(「当事者主権」中西庄司・上野千鶴子著 岩波新書)
これら上記三者の指摘は、いずれもニーズを現状と目標との二つの面でとらえようとするものであり、そうした意味で、ニーズとは目標に対する現状の欠乏であり、現状と目標のギャップであるといえる。
目標(こうあってほしい状態)
現状(困った状態)
居宅サービス計画書にどのようにかくのか
したがって個々のニーズを具体的にどのように表現するかは、目標に寄り添った表現をするなら、「○○のようになりたい」ということになり、現状に沿った表記をすればまさに「困った状態」を具体的に記すことになる。一般論としてはニーズの表記は上記の二通りの表現が可能である。
これに対し、介護保険の居宅サービス計画書作成に関わった当事者である白澤は次のように述べている。
「生活課題(ニーズ)は、『生活するうえで困っている状態』と『その状態を解決する(時には維持する)目標・結果』を合わせた二つの側面で構成され」のであり、「具体的には『生活全般の解決すべき課題(ニーズ)』は狭義の生活ニーズであり、これに『援助目標(長期目標・短期目標)』を合わせて広義の生活ニーズをさす。一般に広義の生活ニーズを生活ニーズとよんでいる」
(「ケアマネジメントの本質」白澤政和中央法規p170)
以上の白澤の見解を整理し表にすると次のようになる
ニーズとは(広義のニーズ)
社会生活遂行上の困った状態(狭義のニーズ) | 解決する目標・結果 |
居宅サービス計画書2表の「生活全般の解決すべき課題」に記載 | 居宅サービス計画書2表の{長期目標・短期目標}に記載 |
(例)買い物ができない | 日常生活用品を含めた買い物をしてほしい |
(例)入浴ができなくて困る | 今まで通り自宅で入浴したい |
いわゆるポジティブプランの誤り
佐藤信人は「ケアプラン作成の基本的な考え方」で、ニーズとは意欲(「○○したい」)であるという考え方を提示している。これがいわゆるポジティブプランと呼ばれるゆえんであり、この考え方の最大の特徴といえる。
佐藤は「『生活全般の解決すべき課題』とは、既述したように『人が要支援、要介護状態になっても、可能な限りできる範囲で、可能な限り自分らしい生活を営むこと、自分の人生に主体的、積極的に参画し、自分の人生を自分でつくっていく』という『自立への意欲』のことをさしています」したがって「自立支援のケアプラン作成に当たっては、利用者の『自立への意欲』をまず最初の土台(出発点)にすることが大きなポイントになります」と自立支援のケアプランのニーズは「自立への意欲」として表記されるべきとします。
佐藤のこの主張は自立支援のケアマネジメントとして全くまっとうなものである。ただ、佐藤をはじめとする「いわゆるポジティブプラン」を展開した人々が誤ったのは、白澤の「生活課題(ニーズ)は、『生活するうえで困っている状態』と『その状態を解決する(時には維持する)目標・結果』を合わせた二つの側面で構成され」ということ理解せず、『生活全般の解決すべき課題(ニーズ)』の欄で『自立への意欲』まで展開してしまったことである。その結果、意欲に展開された「生活全般の解決すべき課題」と長期目標の区別が難しくなってしまったのである。
結論
以上の結論として、居宅サービス計画書2表の「生活全般の解決すべき課題」は『○〇したい』と書くべきではなく、「困っている状態」として記載すべきである。長期目標は「自立への意欲」に転換したものとして、利用者が「こうあってほしい状態」を記載することになる、そして短期目標は長期目標を実現するためのステップを記載すべきであると考える。