自立を考える(その7)
個人の尊厳と自立
介護保険法をはじめいくつかの社会保障関係法の理念や目的に関する条文に「個人の尊厳」「自立した生活」という言葉が度々登場する。
介護保険法第1条には「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」とある。社会福祉法第3条には「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、・・中略・・その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援する」となっている。障害者総合支援法第1条は「障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう」とされ、さらに、社会福祉士介護福祉士法と精神保健福祉士法では、それぞれ根拠を持つ専門職に対し、支援を受ける人の尊厳保持とともに、自立した生活の支援に向けて、誠実に業務に当たるよう求めている。ここで見てきたように、これらの法律では「個人の尊厳」「自立した生活」が一体のものとして使われている。
「個人の尊厳」とは「一人ひとりの人間を、かけがえのない大切な存在として尊重する」ということであり、身分や生まれた地域、性別、信仰にかかわらず、人として大切にするということである。この考え方は憲法13条の「すべて国民は、個人として尊重される」、同24条「個人の尊厳」として示されている。この「個人の尊厳」は基本的人権の基礎であり、憲法の理念が凝縮されているとも言われている。
介護の世界でも、尊厳を大切にしたケアなどといわれており、介護にかかわる人、専門職に強く求められているものであるが、同時にこれは、第一義的には、国家に対して、「一人ひとりの人間を人として大切にしなさい」 と言っているということである。立憲主義とは、憲法は国家権力を制限して人権を保障するものと考えるからである。憲法に「すべて国民は、個人として尊重される」の書かれているということは「国家よ、一人ひとりの人間を人として、大切にしなさいよ」ということであるし、介護保険の第1条の「尊厳の保持」もそのようなものとして理解しなければならない。
さらに、個人の尊厳と自立の関係について憲法学の立場から笹沼弘志は次のように指摘している。「他者の押し付けや恣意的な支配に対しては、いやだという権利があるというのが自己決定、個人の尊重の本質的な意義です」「現在の憲法学においては、主流においても反主流においても、人間又は個人の道徳的な自律能力又は生存における自立力が人権の基礎とされている。」※
自立、自律しているということが尊厳の保持の前提であり、尊厳が大切にされない自立というものもないのである。このように、「個人の尊厳」「自立」との関係は一体のものとして考えられるのではないか。
自立について考える場合、その基本的視座として、個人の尊厳という価値観を抜きにしては考えられないということではないか。
※(「臨床憲法学」笹沼弘志著 日本評論社)