熊野市の高齢者福祉を考える(その2)
――「熊野市高齢者福祉計画」を読んで その2――
計画では、在宅福祉サービスとして35に上る事業を上げている。しかし大半がこれまで継続してきた事業であり、新規の事業は見当たらない。それどころか今年度に入り二つの事業の廃止が示された。「寝たきり老人・重度認知症高齢者福祉手当」と「家族介護用品支給事業」である。特に「家族介護用品支給事業」は「おむつ代」として知られておりオムツを使用している要介護高齢者とその家族から喜ばれていた事業であるだけに、その廃止の与える影響は大きい。
計画の中で「在宅生活の継続のために充実が必要な支援・サービス」として調査の回答で最も多かった回答が「外出同行」「移送サービス」であったとして紹介されている。この地域で車の運転をやめた高齢者が、生活を維持していくうえで、移動の問題は最も大きな課題であることはこれまでも多くの場で指摘されてきた。しかし、この問題について具体的な対策としては「公共交通空白地域有償運送高齢者対策事業費補助事業」が上げられているだけである。地域ではその他福祉有償輸送や過疎地有償輸送がおこなわれており、また市域を越えて紀南病院への移動の問題等も指摘されている。高齢者の移動にかかわる総合的な検討が求められているが、ここではそうした切実な住民の声にこたえる施策を見出すことはできない。
介護ということで言えば、今一番深刻な問題は介護職員の不足である。この地域には生産年齢人口が少ないうえに、介護職員のなり手がいないのである。このまま推移すれば近々訪問介護制度はあっても、ヘルパーがいないので介護サービスが提供できない、といった状況は目に見えている。これは介護保険の問題で熊野市の高齢者福祉の施策ではないということでは済まない問題であり、この計画の中でまったくふれられていないことは残念なことである。
全体として「高齢者の現状」で高齢化が進み、一人暮らし高齢者世帯が多く、高齢者をめぐって大変な地域の現状を指摘している割に、その施策には全く新味がなく高齢者福祉における市の積極的な姿勢は見て取ることはできない。
個別の施策についてこれ以上ふれることはやめて、この計画全体の問題について最後に述べておきたい。この計画では「将来増の実現に向けた高齢者福祉の目指すべき方向」として3つの基本目標を設定している。
その第1目標が「自らの健康を守り、生きがいのある自立した生活」として「健康づくり」や「生きがいと社会参加」を挙げている。もちろんこれらの目標は極めて至当な目標であり何ら異存をとなえるものではない。ただし、この計画は高齢者福祉計画であることを指摘しておかねばならない。頑張って健康づくりを行い健康寿命を一日でも長くすることは大切で切実な高齢者の願いである。しかし残念ながら、健康寿命と平均寿命の差、つまり介護をはじめ何らかの世話や手助けが必要な期間、この期間をゼロにすることは難しい。まさにこの期間に支援が必要な高齢者を支えていくのが行政の高齢者福祉の施策なのである。この施策が先に挙げたように不十分なものであったとしたら、高齢者福祉計画としては画龍点睛を欠くと言わねばならない。