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ケアマネのつぶやき

ケア労働の賃金はなぜ安い

国はこの2月から介護職の賃金引上げのため9,000円の補助を行うことを決めた。しかし、この程度の賃上げでは介護労働者の低賃金構造の改善には程遠い。

厚生労働省の統計によれば、福祉施設の介護員の月給は2014年の全国平均が常勤で21万9700円、訪問介護員(ホームヘルパー)は22万700円。全産業平均の32万9600円より約11万円低いのである。

介護現場で働いている労働者はどう考えているのか。介護労働安全センターの令和2年度介護労働実態調査による介護労働者の満足度を調べたものがある。満足度DI※1によって示されるものによると、満足度が一番高いのが「仕事の内容・やりがい」で46.0、一番低いのが「賃金」で-13.9となっている。多くの介護現場で働く人々はその仕事にやりがいを感じ、誇りを持って働いているが、賃金の安さに不満を持っていることがこの数字から読み取れる。ここに見えるのは,給料は安いけれどやりがいのある仕事だからという「やりがい搾取」※2ともいえる実態ではないか。

介護職の低賃金を作り出しているのは、直接的には国が決める介護報酬が低く据え置かれていることによる。この基本となる部分をそのままにして、一部の介護職員の賃金の補助を行ってもそれは一時しのぎの、政府の人気取り政策に過ぎないと言わざるを得ない。 

介護に係る人たちの賃金はなぜそんなに低いのだろう。

コロナウイルスの感染の中で「エッセンシャルワーカー」や「キー・ワーカー」といわれる社会生活の基本的な部分をささえている人たちが注目されている。医療職や介護職、教師、保育士や警察官や消防士といわれる職種の人たちである。こうした人たちはコロナウイルスの感染の恐れがあるにもかかわらず、リスクを背負ってケアを提供し続けねばならない人々であり、ネットを使ってテレワークとはならない人たちである。そしてそうした中でもケアに係る人たちは、おおむね低い賃金で厳しい労働環境におかれているのである。

 「キー・ワーカー」と言われる人達とは真逆な人達がいる。つまり、なくなっても社会が困らない仕事のことをデビィッド・グレーバーは、「ブルシェット・ジョブ」※3と呼んでいる。会社の管理職や秘書、CEO、ロビイスト、企業弁護士等を挙げている。こうしたホワイトカラーと言われている人たちは、なくてもいい無駄な仕事を延々と作り出し、自分たちが働くための仕事を製造する目的で働き続けている無意味は集団だとデビィッド・グレーバーは述べている。しかもこうした人たちのほうが「キー・ワーカー」と言われる人たちより賃金が高いのである。

 

コロナ禍は今の社会の基本的、構造的な不平等ともいえる課題をあぶりだした。そしてその価値が十分認識されてこなかった、こうしたケアに係る労働の価値が改めて見直されることになった。

日本国憲法には次のように記されている。

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第14条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

こうした憲法の精神を現実化し、いのちと暮らしを守ることに係る労働こそ第一義的に評価されるべきである。少なくともこうした職業がまっとうに評価される社会でなければならないと考える。

 

※1満足度DI=(満足+やや満足)―{やや不満足}+「不満足」)

※2経営者が支払うべき賃金の代わりに、労働者に「やりがい」を強く意識させることにより、本来支払うべき賃金の支払いを免れる行為をいう。東京大学教授で教育社会学者の本田由紀により名付けられた。

※3「ブルシェット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」デビィッド・グレーバー著酒井隆史訳 岩波書店

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