1. HOME
  2. ブログ
  3. ケアマネのつぶやき
  4. 介護保険の「家族の介護負担の軽減」はどこへ

つぶやき

つぶやき

ケアマネのつぶやき

介護保険の「家族の介護負担の軽減」はどこへ

昨今の介護保険をめぐる議論で危惧することがある。介護保険の成立の過程で議論された重要な論点が、「家族の介護負担の軽減」「介護の社会化」であった。ところが最近では介護保険をめぐる論点として、この課題は置き去られようとしているように思える。

 例えば、令和3年の「介護報酬改定にあたっての主な事項」では「感染症や災害への対応力強化」「地域包括ケアシステムの推進」「自立支援・重度化防止の取り組みの推進」「介護人材の確保・介護現場の革新」「制度の安定性・持続可能性の確保」であり、ここに家族介護の負担軽減等の文言はきれいになくなってしまっている。

果たして介護保険の20年間の中で、「家族の介護負担の軽減」「介護の社会化」といった課題は解決されて、もはや今日の課題ではなくなったのであろうか。この点については多くの研究があるが、こうした先行研究を踏まえ新見陽子氏は「高齢者介護は、介護を担う家族介護者の就業行動や健康状態、主観的幸福度など、様々な側面で負の影響を及ぼしている。介護保険制度の下、介護サービスを利用することでそういった負の影響が軽減される傾向にあることも確認されているものの、そのような効果は決して十分とは言えない。」※1としている。

こうした研究者の指摘を待つまでもなく、マスコミ等で報道されている、介護殺人と言われるものは介護保険のサービス増加にもかかわらず増えている。介護保険が始まったのが2000年であるが、警察庁の犯罪統計によれば、2007年から2014年までの8年間に「介護・看病疲れ」を動機として検挙された殺人は356件、自殺関与は15件、傷害致死は21件であった。また殺人ではないが、内閣府の自殺統計によれば、2007年から2015年の9年間に「介護・看病疲れ」を動機とした自殺者数は2,515人となっている。さらに介護者による被介護者の虐待相談・通報件数では2006年の18,390件が2017年には30,040件と増加している※2。こうした数字は介護保険の利用が進んでいく中で起こっているのである。

さらに、介護や看護のために離職する介護離職は 2017年には約9万人。2010年代になっておよそ2倍に増えた(2007年比)と言われている。こうした、介護離職が増加すれば、労働力不足の問題を一層深刻化させ、経済的にも大きな問題とされている。経済産業省によると、介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は1年当たり約6,500億円と見込まれているのである。

こうした現実は、介護保険の利用者が増え、サービスも拡充されていった中で生じているのであり、介護保険が当初目指した「家族の介護負担の軽減」はいまだ解決されることにはなっていないということを示している。では今「家族の介護負担の軽減」が介護保険に関する議論に上ってこないのはなぜか。この問題に関して白澤政和氏は次のように述べている。 

介護保険法第1条の目的で「介護負担の軽減が自立支援と並列的に目的に加えられるべきであった。公的介護の目的は、利用者の自立と介護負担の軽減にあり、それが明記されなかったことが、介護保険制度の在り方に大きく影響しているともいえる。」さらに「介護保険制度の目的に介護者支援を追記し、同時にケアマネジャーの役割は、要介護者と介護者の両者を支援することであることを明確化する必要がある。」※3

さて、この問題は現場の実践の中ではどうなっているのであろうか。とりあえずケアマネジャーは利用者の要介護状態を把握し支援計画を作るのであるが、同然そこには被介護者を支える家族があり、そこを含めてアセスメントを行うのは常識である。まったく家族がいない場合は別であるが、家族介護者の負担軽減、介護者支援はケアマネジャーの支援計画の射程に入っている。ケアマネジャーとして今できることは、介護家族の支援の必要性と可能性を実践の中で明らかにし、発信することではないか、私はそう考えている。

但し、介護と家族の問題は単に介護負担の軽減といった問題にとどまらない様々な課題があると考えている。これらの問題については次回検討してみたいと思っている。

※1「家族が抱える高齢者介護の負担」 新見陽子

※2『平成29年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』(厚生労働省)

※3「ケアマネジメントの本質」白澤政和 中央法規

関連記事