お仕着せの更新研修に意味はあるのか
介護支援専門員(ケアマネジャー)ってなんでこんなに研修が多いの、という意見をよく耳にする。介護支援専門員になるのには、まずそれぞれが国家資格を持っていることが前提になる。そのうえで厳しい試験を受けて、そこで待っているのが実務研修である。87時間という研修を受けて、晴れて介護支援専門員となる。さらに就業して6か月たつと専門研修Ⅰ(56時間)を終了する必要がある。さらに3年たつと専門研修Ⅱ(32時間)を受講しなければならない。これまでは新しく介護支援専門員になった場合の研修であるが、さらに更新研修を5年ごとに受講・終了しないとケアマネジャーに資格は更新できないのである。一度資格を取ればずっとケアマネが続けられるわけではない。さらにステップアップして主任介護支援専門員になるためには70時間の研修を受けることとなる。
これらの法定研修実施にあたっては詳しいガイドラインが定められており、それに従って都道府県が実施することとなっている。
さらにこうした法定の更新研修以外にも、随時様々な研修受講が義務付けられている都道府県もある。これが国が決めた法定研修であるから、厚労省や介護支援専門員協会はこれだけ研修を受ければよほど立派な介護支援専門員ができると考えているのだろうか。
一方、教員免許に10年の期限を設け、更新講習を受けなければ失効する教員免許更新制が、今年7月に廃止される見通しになった。教員の資質確保を目的に第1次安倍政権時代に法改正され、2009年度に開始。無期限だった教員免許に10年の期限を設け、期限切れ前の2年間で講習を30時間以上受け、修了認定されなければ失効するとした。ところがその後、教員の不足や負担増の一因と指摘され、現職教員の半数超が「廃止すべき・意義を感じない」と回答していたものである。
お仕着せの更新研修により介護支援専門員の資質向上は果たされているのであろうか。初任時の研修は別として、5年ごとの更新研修(主任介護支援専門員更新研修も含む)に関して私の個人的なこれまでの研修参加の経験から言えば、それはほとんど不可能に近いと考える。全国一律のガイドラインに基づく研修は、介護支援専門員の個々の到達度や興味関心とは異なり、新たな学びを得ることは難しい。ケアマネジメントにおける実践事例の 研究及び発表として「リハビリテーション 及び福祉用具の活用 に関する事例」「看取り等における看護サービスの活用に 関する事例」等の課題が設定され延々と講義、事例検討が行われる。たまに良い講師の講義に出会うことはある。しかしあくまで「たまに」であって運が良ければということである。また、そこで行われるグループワークも決められた方式にもとづいて指導者の描く結論をなぞるだけで、参加者同士の自由で刺激的なグループワークとは程遠い。そこでは参加者は研修の時間数を満たすためにただひたすら耐え忍ぶことになる。さらに5年に1回の更新研修は専門研修Ⅱとしてそのカリキュラムが決められているのであるから、介護支援専門員として働き続けると、同じ研修を受け続けなければならないのである。
しかも、そうでなくても忙しい現場を抱えた介護支援専門員ばかりである。貴重な時間をつぶし、高額な受講料を払い、参加を義務付けられるお仕着せの更新研修は一日も早くやめるべきである。少なくとも今の研修が役に立っているかどうか、全国の現任の介護支援専門員に聞くべきであろう。
もちろん介護支援専門員にとって、研修によりそのスキルを高め研鑽を積むことは専門職として当然必要なことである。しかしそれは全国一律の義務的な研修ではなく、あくまで個々の介護支援専門員の到達度や評価に基づき、それぞれ自主的、自発的なものであるべきだと考える。なぜならそれが専門職としての介護支援専門員の矜持であると考えるから。