サービス付き高齢者住宅等のケアマネジメント
日本総研から「サービス付き高齢者向け住宅等における適正なケアプラン作成に向けた調査研究」報告書が発表されている。これは令和2年度老人保健事業推進費等補助事業としてまとめられたもので200ページを超える報告書であるが、表題に占めされているようにサービス付き高齢者向け住宅等におけるケアプランには問題があるのではないか、という問題意識から出発していることは明らかである。日本総研は「適正なケアマネジメント」という言葉が大好きなようである。
ここでその調査結果に詳しく触れることはできないが、「アンケート調査結果から得られた示唆」としてまとめられているので原文のまま紹介しておく。「『ケアプランが画一的』、『必要なサービスがプランに位置づけられていない』、『限度額一杯まで設定』、『住まい運営法人のサービス優先』となっていることが多い状況である。これらの問題の背景は、主に、『運営法人からの指示・指導』によるもの、加えて、介護人材不足からくるものである。このような結果を踏まえると、一部のケアマネジャーにおいては、住まいの運営法人からの指導と、目の前の利用者に対する適正なケアマネジメントとの問で、『利用者本位のケアマネジメントを実践したいと思っているのに、住まいの運営法人からの指導等により、それができていない』と葛藤している状況があることが推察される。」としている。
こうした指摘は、この調査研究の結果を待つまでもなく、真面目に仕事をしようとするケアマネジャーにとって、困難を感じている現場の課題の一つである。もちろんすべてのこうした高齢者住宅がそうなっているわけではない。良心的に運営されている高齢種住宅もたくさんある。しかし一部のこうした収益を優先した高齢者住宅があるのも現実である。入居する利用者はみな介護認定を受けているから、「介護認定による支給限度額いっぱい使ってもらわないと困ります」しかも「そのサービスは高齢者住宅を運営する法人の介護サービスに限ります」「他の事業所のサービスは使えません」とはっきり言われる。「それはおかしいでしょう」と言いたいけれど、介護保険の入所施設はいずれもいっぱい、自宅で暮らすことが困難な要介護高齢者の行先探しに苦慮するケアマネジャーにとって、その言葉はぐっと飲みこむしかない。
この問題の背景は「こうしたサービス付き高齢者住宅は国の政策として推進されてきたものである。高齢者施設への入所を希望する、いわゆる多くの待機高齢者の存在に、国は高齢者施設の増設ではなく、こうしたサービス付き高齢者住宅として、多少の補助金をつけることにより民間にまかせた。その結果、全国に雨後の筍のようにサービス付き高齢者住宅が誕生したのである。こうした民間の事業所や個人が行うサービス付き高齢者住宅は慈善事業ではないから、当然のごとく利益を追求してその料金設定を行う。したがって、介護保険サービスを最大限使うことを前提に経営が行われていくこととなるし、これを規制するものは何もない。」(これまでの「ケアマネのつぶやき」から再掲)この高齢者住宅の問題は、これまでも2回ほど「ケアマネのつぶやき」の中でふれてきたが、公平性を求められる介護保険のケアマネジャーと介護保険に組み入れられたサービスの市場原理が交錯するそうした現場の矛盾なのである。今回の報告書は「適正なケアプラン作成」という名のもとに、ケアマネジャーにこうした現実を是正させようというのである。
ではこの「調査研究」はそうした現実に対してどうしようとしているのか。「高齢者住まい運営事業者・ケアマネジャー・住まいの職員向けの啓発」を上げ「具体的には、以下の観点について共通理解を得ることが重要と考えられる。『適正なケアマネジメントとは何か』『なぜ適正なケアマネジメントが重要か』『どうすれば適正なケアマネジメントが実践できるか』」としている。
さらに、高齢者住まい運営事業者・ケアマネジャー・住まい職員を主な対象者と想定し「サービス付き高齢者向け住宅・住宅型有料老人ホームにおける適正なケアマネジメントのヒント」(仮)と題する冊子を作成するとしている。この冊子が現場で苦慮するケアマネジャーにとって、役に立つものであってほしいと思うのであるが。
さらに、「アンケート調査結果から得られた示唆」の2番目に「入居率が高い住まいほど利用者本位のケアマネジメントが実践できていると認識している割合が高くなっており、「適正なケアマネジメント」と入居率との相関が示唆された。また、「利用者本位のケアマネジメントができている」という住まいほど、「介護職員の定着」等の運営上の課題が少ない。・・・中略・・・上記から、「適正なケアマネジメント」を実践することは、入居者ひいては職員の満足度の向上につながり、その結果として入居率向上や離職防止等の経営上のポジティブな効果をもたらす可能性が示唆される。」としている。